第14話 『アバァ』との遭遇。 下

 「アサト…」

 いきなり呼ばれたアサトは、小さく驚いた表情でクラウトを見た。

 「はい?」

 「…チャ子ちゃんのお父さんと言う人、覚えているか?」

 その問いに小さく顔を傾けて考える。


 「…グルヘルムで会ったフードの亜人…」

 「…あっ、レヂューの…」

 アサトが答えると、小さく頷くクラウト。


 そう言えば、あの時、レヂューを分けてくれたパーティーの人達が話していた。

 『アバァ』を探している人物の事、そして、あの時、引っかかっていた聞いた事のある名前…『アバァ』…。

 そうである、チャ子を救いだした『アバァ』討伐戦の話しを聞いていた。だから、覚えがあったのだ。

 そして、チャ子の父親と言う人との出会い、と言うか、挨拶をしただけだが、あの時も『アバァ』を探していたんだ…。


 「アルベルトが動くと言った時は…僕らも」

 その言葉に小さく頷いて見せた。

 「そうですね…その時は、狩りましょう!」

 アサトは小さく、そして、強く言葉にした。



 夜が更けて、『ジーニアの店』

 アルベルトは、ロマジニアが座っているカウンターに近づいて、視線を合わせた。

 ロマジニアはコップのエールを飲むとお代わりを頼む。

 アルベルトは、バーテンに指を立てて同じものを頼むと席に就いた。


 「…で、答えはどうだ?」

 アルベルトの問いに、無言で運ばれてきたエールを口にするロマジニア。

 アルベルトも、エールを口にする。


 「…チャ子…というんだよな」

 「あぁ、今はな…、そして、これからも…」

 「幸せなのか?」

 「あぁ…少なくとも今はな…そして…これからもな…」

 アルベルトはエールを口にした。

 「そうか…」

 アルベルトの言葉に、ロマジニアは深いため息をついた。


 「あぁ、とりあえず、お前の毛とネコ娘の毛をなんとかして、DN…なんとかで検査すれば、親子かどうかはわかるようだ」

 「あぁ…、手間をかけさせる…」

 「あぁ…とんでもない手間をな…」

 アルベルトは冷ややかな目をロマジニアに向けてエールを口にした。


 「もし…親子なら…一緒に…」

 「ムリだ…それは考えるな…お前の道は、一つだけだ…」

 ロマジニアの言葉に視線を外す。

 「…」

 アルベルトの言葉に小さくうつむくロマジニアの姿がそこにあった。


 「あいつは、サーシャを母親と思っている、それに…」

 ロマジニアへと視線を向けた。

 「…あいつが、あいつらしく生きられるのは、サーシャのもとだからだ、分かるな?」

 冷ややかな目が、一層、冷ややかになった。


 2人の背中では、狩猟者らが大騒ぎをしている。


 「…お前が、ネコ娘の親父であっても、なくても…俺の提案は…1つだけだ。」

 そう言い残すと立ち上がったアルベルトは、銅貨3枚をカウンターに置くと席を後にし、エールを見つめていたロマジニアは、アルベルトを追う事は無かった…。


 『ジーニア』の店をでようとしたアルベルトは、扉の取っ手が動いた事に動きを止めた。

 開かれた扉の向こうに、大きな体をしている、猪の顏で、体が人間のイィ・ドゥが2人その場にいた。

 その2人を見上げるアルベルト。


 すると、その間から、緑がかった4本しかない指を持つ手が伸びてきて、2人の間を開けた、そこにいたモノは…。


 ずんぐりとした体形に、アルベルトより小さな身長、そして、三角に近い顔を持ち、口がやたら大きくて広く、鼻の形は無いが、鼻孔はあり、目は異様に離れているカエルのような顔をしている者が現れた。

 片方にメガネのレンズと紐のようなモノをぶら下げてあり、その紐の下には小さな骨が結わえられてある。

 背の高い紫色のシルクハットに、スーツも紫色。

 そのスーツの中は、白いYシャツ、そして、襟から紐を2本垂らし、その紐の中ほどの所を宝石で止めてある出で立ちであり、湿ったような異様なにおいのする者が目の前に現れた。


 かなり薄気味悪い印象に、アルベルトは目を細める。

 その者は、大きくにんまりとした笑みを見せた。


 「…いやぁ~、すみませんな…」

 「あぁ…べつに構わねぇ~」

 一歩後退して、道を譲ったアルベルト。

 「…はははは…」

 笑いながら中に入るモノ…。


 アルベルトは、その者を見ていると、カウンターにいたロマジニアが目を見開いてこちらを見ているのに気付いた。

 その視線から、男に視線を移して、「…ッチ」と舌打ちをするとなかに入り、ロマジニアの元に戻った。

 ロマジニアは立ち上がり、腰に据えてある剣に手を乗せていたが、アルベルトがロマジニアの傍に来て、その手を制止させた。


 「…あいつか…『アバァ』ってのは…」

 小さな声で確認を取る。

 「…あぁ…」

 唇をかみしめながら答えたロマジニアの表情には、憎悪がみなぎっていた。

 「まずは落ち着け…とにかく、今はマズい」

 腰を降ろさせたアルベルトは、ロマジニアの横に座り、入って来た『アバァ』を見る。


 「…ッチ。ったく、なんだ、あの薄気味悪い生物は…」

 「…フーリカにいる、大カエルと言う生物がいる。」

 「大カエル?」

 「あぁ、フーリカの貴族が、面白半分で、人間の女と大カエルをやらせたみたいなんだ、その結果が…あれだ…」

 横目でアバァを見ている。


 「…ったく、どこのバカだ、その貴族は…あれは、イィ・ドゥってもんじゃね~、くせぇ~し…気味悪いし…」

 冷ややかな視線を外してロマジニアを見た。

 「…とにかく、今は動くな。いいな…。拉致された者の安全が優先だ」

 強く言葉にする。

 「だが…」

 「いや、今会えたのはラッキーだ。近くにアジトがあるか…、それとも…、中継地点か…とにかく、俺の支持なしに動くな、分かったか?」

 小声で言うと顔を寄せた。

 その迫力にロマジニアは目をそらして頷き、その行動を見てから、アルベルトはアバァを見た。


 「…ったく…手が、カエルとは…ほんとうに化け物だな…」

 冷ややかな視線でアバァの手元を見た。

 アバァは、運ばれてきたエールのコップを大きなカエルの手で掴むと、口に運んでいる…。



 翌日…。

 アイゼンの部屋に、アルベルト、ロマジニア、そして、セラにサーシャとテレニア、クラウトがいた。


 「それは、本当なのか?」

 アイゼンの表情が強張っていた。

 「…あぁ、こいつが確認した」

 アルベルトがロマジニアを指さす。

 「そして…」

 エールの入っていたコップを出して、セラを見た。

 「さぁ~蝙蝠にさがさせろ」

 冷ややかな視線をセラに送った。


 その言葉に目を細めるセラ。

 少しばかり見合う2人…、すると、「セラちゃん、この怖い人は忘れて、お願いね」と、テレニアが優しく声をかけた。

 「う…うん」

 少し躊躇するが、仕方がないような表情で頷いてみせた。


 蝙蝠3匹を出したセラは、コップの感じを探らせてから、アイゼンの部屋の窓を開けて空へとむかわせた。

 その光景を見ながら舌打ちをするアルベルト。

 その傍で、怪訝そうな視線でアルベルトを見ているセラがいた。


 テレニアは、アルベルトの脇を肘で小突いて、小さく顔をしかめると、アルベルトは一層、不快な表情を浮べた。

 蝙蝠は、街に急降下すると、編隊を組んで街へと姿を消して行った…。

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