第13話 『アバァ』との遭遇。 上
夕方近くに、アリッサ、セラ、ポドリアンとグリフ、そして、テレニアが護衛の依頼を終えて、第10鉱山にやって来た。
セラの訓練は順調のようであり、イモゴリラとチンパンジーのようなサル型の召喚獣、『ソンゴ』を伴い、護衛をしているようである。
『ソンゴ』は、真っ黒い毛で覆われ、体長も1メートル50センチはあり、顔は真っ赤な皮膚で目は青、眉間には赤い召喚石、頭には金色の輪が付いていて、その輪は、なぜか外れないようであり、金色の地色に赤で縁取りされている鎧と小手、膝あてと長い棒を持っていた。
この『ソンゴ』は狐の爺さんから譲り受けたそうであり、大陸を越えた国で、凶暴な『ソンゴ』を狩った時に取った召喚石のようだ。
話によれば、この『ソンゴ』は
サルの獣人に近い存在であり、王を名乗っていた事もあると言う話である。
すばしっこく、また好戦的であり、言う事を聞かない召喚獣であるが、ある呪文を唱えると、頭の輪が縮まり、その痛さに落ち着くようであった。
狐の爺さんは、その『ソンゴ』に芸を教えたようである。
戦う事が無くなり、イモゴリラが村を守っていてくれているので、『ソンゴ』に戦闘を教えなくてもよく、たまに暇つぶしでサル芸を見たいと言う事であったようだが…。
この『ソンゴ』は、最初はなにもできずに踊りを踊ったり、飛び跳ねて回転ばかりしていたようである。
その『ソンゴ』に対して、テレニアが色々調教をしたようであり、また、グリフやポドリアンと一緒に戦闘の訓練を行いながら、護衛の依頼を行っているようだ。
武器は棒…、だが、この棒は伸びるようであり、また、雲を出して乗る事も出来るようだ。
凶暴かつ好戦的な召喚獣なので、昔の記憶が戻ってきているようだと言う話であり、戦闘に関しても飲み込みが早く、また、応用的な攻撃もでき始めているとの事であった。
セラは、この『ソンゴ』に、『ソンゴ』とそのまま名前を付けて契約をしたようである。
『ソンゴ』自体、仁義や礼儀に精通しており、無礼を働くことはほとんどなく、セラには献身的に仕える様子を見せていたが、ほかの者の言う事は聞かなく、粗暴で反抗的な面を見せる時があるようであった。
召喚獣の使い方や、精神力の鍛錬をテレニアに指導してもらっているセラは、ある程度、召喚獣を長い時間使え、そして、複数呼び出すことが出来るようになってきていると言うが、実戦には、まだまだ使えないと言う事である。
クラウトも色々話を聞き、サーシャが作ってくれたリストを見て、『ソンゴ』と『オークプリンス』は、かなりの戦力になるとの見解を持ったので、テレニアに少し厳しくてもいいから、『ソンゴ』と『オークプリンス』が長い時間使えるようにして欲しいと頼んだが、その2体には、かなりの気力が必要と返された。
今は、どんなに頑張っても、どちらか一つだけしか呼び出す事が出来ないと言う事であり、2体同時に使うには、少なくとも、もう少しセラが歳を重ねなければならないと付け加えていた。
実際、セラは、まだチャ子と同じくらいの年齢である、そのセラに無理は言えないのは確かだし、成長が必要なのも分かる気がする…。
セラの能力は、この旅に不可欠な能力であり、その能力は、限りなく有効に使えなければ意味が無い…。
これは…ちょっと難しい問題なのかも…。
晩御飯を頂いたセラは、アリッサに付き添われて早々に戻った。
帰り際のセラは苦笑いを浮かべていたが、疲れた表情は見て取れた。
かなり無理をさせている事に胸が痛んだ。
テレニアも出来ないなら頑張らなくてもいいと言っているようだが、婿の為と頑張っているみたいである。
…ってか、婿って…。
とりあえず、自分からやる気ならいいのかなとアサトは、帰ってゆくアリッサとセラの後ろ姿を見て思っていた。
クラウトとアルベルト、そして、ポドリアンとアイゼン、エンパイアのリーダー、フレシアスが顔を突き合わせて話をしているのが見えた。
近くに行くと、アサトに気付いたアイゼンが手招きをして、アサトを話の輪に入れた。
「…とにかく…、『アバァ』の仕業だと思う…」とポドリアン。
「…ッチ、俺たちも2か所、同じような村を見た。」
アルベルトが腕組みをしながら目を冷ややかにして言う。
「…昔と手口は変わってない…と言う事か」
顎に手を当ててアイゼンがうつむいた。
「エンパイアとしても手を出さざるおう得ない状況かもな…」
フレシアスも腕組みをして、重く言葉にしていた。
話の内容は、ポドリアンが、今日行った村から得た情報のようである。
アサトらが見た村のような状況の村が、至る所で確認され、若い獣人の亜人…特にネコ科の亜人の娘を拉致していると言う事である。
ほかにも妊娠をしている女性も、ターゲットのようだと言う事であった。
「ところで…アイゼン」
その言葉にアルベルトを一同が見る。
「前回の討伐では、依頼が出ていたようだが、今回は無いのか?」
ややかな視線をアイゼンへとむけた。
「…あぁ…、その件は、まだ確証は無いが、多分、奴隷の合法化が関係していると思う」
「…なら、奴を討伐すれば…罪になる…と言う事か?」
アルベルトの表情が厳しくなった、何かを考えているのかもしれない。
「いや…それは無いと思う」
今度は、フレシアスを一同が見る。
「…奴は、イィ・ドゥだ…、狩りの対象であると言う事になる」
その言葉に、アルベルトは顎に手を当てて何かを考え、その表情を見たポドリアンは、大きくため息をついた。
「…なぁ、アル…お前のその表情は、99%悪い事を考えている表情だぞ」
肩を竦め、ため息交じりに言葉にした。
「…あぁ、でも、俺たちにとっては、いいことかも知れない…」
冷ややかな視線をチャ子に移した。
チャ子は、ケイティとネシラズの肉を頬張っていた。
アサトもチャ子を見る。
チャ子は、アイゼンらが『アバァ』討伐戦を行った場所から救われた子、その父親と言う者が現れ、また、因縁の『アバァ』が現れた。
アルベルトの考えはわからないが、いずれ、『アバァ』の討伐はしなければならない事は感じていた。
それは、チャ子のような被害者を無くする為にも…。
「…とにかく、今は動かないが、俺たちに非の粉が降りかかるようなら…その時は、アイゼン…」
アイゼンを冷ややかな目で見る。
「…あぁ…わかった」
アルベルトの言葉に、チャ子を見ていたアイゼンが小さく頷いた。
アサトは2人の会話を聞くと、再びチャ子に視線を移す。
そのチャ子は、なにも知らずにケイティと戯れ、まだあどけない表情のチャ子が、その場で大きな笑い声を発していた…。
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