第12話 卒業試験、『ネシラズ』討伐戦 下
「直線!」
レイトラの声が坑道一杯に広がり、その言葉に「了解!」と3人が声を上げて直線に入ると!!!
先ほどまでゆっくり進んでいたネシラズが、大きく体勢を屈めて飛び込んできた!
その動きに驚いたラビリは両手で盾を構えたが、2トンもある巨体が盾にぶつかると、大きく後ろに投げ出され、その勢いのままにスカンとジェミーも尻もちをつき、ジェミーの前でけがをしているはずの右腕を、小さく引いているネシラズがジェミーを捉えた。
「ジェミー」
スカンが叫んだ!
「大丈夫だ!」
ジェミーは咄嗟に槍の剣先を上げて、引いている右の掌に向かって剣先を突き立てると、横に体を投げ出した。
ネシラズは掻きこむように右手を出すが、槍が掌に突き刺さり、勢いをつけて出した手は、槍の柄頭が地面に当たり、その場で留まるとネシラズの掌を貫通すると同時に、大きな破壊音と共に槍が折れた。
グアァァァァァと悲鳴にも似た咆哮を上げたネシラズ。
横になっているジェミーは立ち上がり、「外に行く!」とスカンに声をかける。
その声に頷き立ち上がるとネシラズへと視線を移した。
右手には折れたジェミーの槍が貫通していて、つく事もままにならないような動きを見せている。
「ラビリ、大丈夫か?」
「あぁ」
頭を振りながらスカンを見て苦笑いを浮かべた。
ラビリの表情を見て、「もう少しだ!…レイトラ!」
スカンがレイトラを呼ぶと、「なに?」とレイトラがスカンのもとに駆けて来た。
「ここで狩る!みんなを呼んできてくれ!」
レイトラは一度、悶えているネシラズを見てから頷き、外へと向かって駆け出す、その後ろ姿をスカンは見ながらラビリを立たせ、苦悶の表情を見せているラビリへ笑みを見せた。
「さぁ~、終わりにしよう!」
……入り口サイド……
坑道からジェミーが勢いをつけて出て来た。
その姿を見て、「ジェミー」とギッパが入り口へと駆け寄る。
「どうした?」
ディレクがジェミーに言葉をかけると、ジェミーは親指を立てて、「右腕…完全に止めました!」と笑みを見せた。
「みんなは?」とクレラ。
「ギッパ!クレラ…中で狩る!来て!」
レイトラの声が坑道の中から聞こえてきた。
「…ッチ。」
「不測の事態とは…この事だな」
アルベルトの舌打ちにディレクが言葉にし、アサトは目を細めて入り口を見ていた。
クレラとギッパは顔を合わせると中に入ってゆく、ジェミーは辺りを見渡して何かを探していた。
その姿をみたディレクが、「ジェミー…焦るな…」と声をかけ、その言葉に振り返り小さく頭を掻いていた。
その姿を見て「…ッチ。」とアルベルト。
「槍以外も使えるようにならなきゃな」とディレクが言葉をかけた。
……スカンサイド……
「…光の破片!」
クレラが呪文を唱えると、一気に坑道が明るくなり、クレラとギッパの向こうには、2層の光を纏ったスカン、そして、盾を構えているラビリの姿と、その後ろにつき始めたレイトラの姿が見え、その向こうには、右手を庇いながら横の壁に体を預けている灰色の熊が見えた。
左手を搔き出すように出しては、口を大きく開けて威嚇をし、その手前でラビリが盾を出しては、スカンが斬りかかっている風景がある。
「…光の防御!」
クレラが呪文を唱えると、スカンとラビリ、レイトラに、再び、1層の光がまとわり始める…。
「闇の神よ…力を貸して!」
ギッパがロッドをネシラズに向けた。
「みんな!伏せて!」
クレラが声を上げ、その言葉に振り返るスカンとラビリ、そして…レイトラ…。
「闇の
ギッパが呪文を発すると同時に、紫の雷が空気を切り裂くような音を伴って何重と走り始めた。
「あの…ばか!精神攻撃って言ったのに!」
レイトラが叫びながら地面に伏せ、その攻撃に目を見開いて、スカンとラビリが地面に飛び込んだ。
紫の雷は3人の上を通り過ぎ、ネシラズに纏わりつくと、静電気のような重い音を放ち始め、その攻撃に身震いを始めた。
数分間、身震いをすると頭から地面に崩れ落ち、そのタイミングを逃さないように、スカンが飛び起きてネシラズの頭に飛びつき、剣を脳天に突き刺した。
肉を切り、骨を砕いた鈍い音が聞こえる…、と同時にラビリが大剣をネシラズの眉間に突き刺す。
そのタイミングでレイトラがネシラズの横に動いて、短剣を首に走らせた…。
そして……。
静まり返った坑道には、再び、天井から水滴が落ちる音が響きはじめる…。
荒い息のままで頭に座っているスカン。
体を預けるように眉間に剣を突き刺したままのラビリ。
短剣を両手で持って、ヘナっとネシラズの横に座り込んでいるレイトラらの姿が、光の破片に照らされ、左右にある壁に影を映し出していた。
クレラとギッパが、その3人に近づいてゆく……。
……入り口サイド……
「ッチ」
「…なんだ?どうなった?」
インシュアが、舌打ちをして見せたアルベルトの傍に寄る。
「…終わったようだ…なにが面白くて…笑ってやがる…」
冷ややかな視線を坑道からディレクへと移した。
「仕方ないだろう」
ディレクが腕組みをしながら、薄い笑みをみせて入り口へと向かった。
アサトはシスティナを見て、「終わったようだね」と声をかける。
「ウン…なんか、私たちが『ギガ』を狩った時と同じ…」と笑みを見せた。
坑道からは、大きな、大きな笑い声が聞こえ、その笑い声は、何が面白いのかわからないが…とにかく笑っておけというような気分の笑いに感じていた。
ジェミーは、いそいそと坑道の中に入って行き、ディレクの後ろ姿を見ながらアルベルトとインシュアが後についた。
「…狩るところは見られなかった…残念」
フレシアスが、なかに入って行く者らを見ながら肩を竦めた。
「まぁ~仕方がないよ。絵に描いたような狩りなんて、出来るものじゃないし、彼らのチームのリーダーが、そこで狩る事を決断した結果だからな」
フレシアスの背中に手をあてたアイゼン。
そのアイゼンを見ながら、「…まぁ~な」と声を漏らしていた。
その後、ネシラズを坑道から出し、2層以下に逃げていた工夫48名を救出した。
ネシラズの全長は4メートル80センチで、体重も2トンは超えていると思われるように丸まると大きく、そして、太い胴体。
その巨体が一同の前に横たわっている。
右の掌には、ジェンスの槍が突き刺さっており、骨折しているとの獣医の診察もあった。
また、右の後ろ脚にも腫れがあるところを見ると、その場所も骨折しているようであるとの事であった。
衛兵からの連絡で、進入路は、西側の崖と壁の合わさっている場所であり、崖を伝い、壁を越えたようだと言う。
賢いのかどうかはわからないが、壁には痕跡を残さず、崖にはがっしりとした爪痕を残していたようであった。
検証は、後日、動物学者と言う者にしてもらうとの事である。
アイゼンの話しだと、この動物学者は、エイアイの弟子のようだ。
エイアイが言っていた、最初の教授と言われる50名のうちの一人のようである。
救護用のテントを張り、パイオニアとエンパイアの共同で、工夫の救護所や炊き出しを行った。
そこで、バネッサと母親、そして、父親が面会をして、無事の生還を喜んでいた風景を、アサトとジェンスは黙って見ていた。
すると、バネッサが2人を見て手招きをしている。
その行動に軽くジェンスの背中を押して笑みを見せたアサト。
その笑みにニカっと笑って答えると、バネッサの所にジェンスは向かって行った。
その光景をみながら…。
懐を大きくしなきゃな…とアサトは思っていた…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます