第11話 卒業試験、『ネシラズ』討伐戦 上

 スカンとレイトラが持つ松明の灯りで、ほんのり明るく照らし出されている、横に張り渡された木の柱、下は土であり、所々に水の塊が見える。

 松明の火が時々、弾ける音を立て、水が天井から落ちる音も色々な所から響いて来ていた。


 真っ暗な中で、2層の光を纏っている影が4つ、揺らめきながら進んでいる。


 ラビリはゆっくり、足場を確認しながら進み、その後方ではジェミーが、ラビリの脇から、前方へ槍の剣先を向けていた。

 その傍には、スカンが両刃剣を構え、その背中に手を当ててレイトラが後方を確認しながらついている。


 出入り口から差し込む光は小さくなり、前方の暗闇は、一層の闇を纏い始めていた。


 耳を澄ます…。

 火の弾ける音と水滴が落ちる音…そして、ラビリが土を噛みしめる音に、ひっそりと踏み出しているジェミーとスカン、レイトラの足音が、しんなりと暗闇に響いていた。


 静まっている坑道は、小さな音でも響き渡るような静けさがあり、若干右に曲がる道を進むと少し下り、しばらく進むと木で補強されている場所が終わり、ゴツゴツした岩肌となった。

 そこを進む…横穴は存在していない事と、篝火が設置されていると思われる場所が壊れてもある事を、松明を近づけて確認しながら進んだ。


 先頭のラビリは身を屈め、両手で盾を構えながら慎重に前を見据えて進む。

 少しばかり上下した道を進むと、薄暗くと言うか、ほのかな光が小さく立っている場所が見え、その場所に松明を向けて確認をする。


 そこは空間になっていて、真ん中あたりからほのかな光が見えていた。

 真っ暗で大きめの空間は、光が届かないせいもあって、どのくらいの大きさなのかはわからないが、ほのかな光にぼんやりと、レンガで60センチ程の高さの壁みたいなものがあり、そこから梯子と思われる木が数本出ているのが見えた。

 「…暗すぎるな…」

 スカンが、頭に落ちた水滴が頬を流れてくるのに手を当てた。


 レンガの壁に向かって、スカンはラビリの肩を叩いて指をさした。

 その方向へと視線を移したラビリは、小さく頷き進み始める。

 壁の傍に来て覗き込むと、壁の向こうには、直径2メートル程の穴があり、昇降用の梯子がかけられてあった。

 下には篝火がたかれているのであろうか…、柔らかな光が揺らめいているのが確認でき、その灯りがこの穴からほんのりと漏れていたようである。


 そのスカンの背中をレイトラが小突いた。

 レイトラへと視線を移すスカン。


 レイトラは、穴の近くにある筒へと顎を何回か動かし、その方向を見たスカンらは、ラビリを先頭に筒へと向かう。

 辺りを見渡してから筒を見る。


 直径10センチ程の筒には、蓋が付いてあり、そのような筒が5本。

 筒には、一本ずつ2・3・4・5・6と記してあった。


 スカンは慎重に、2の筒の蓋を開けると、3の筒…そして、6の筒まで開けて中を見た。

 中は真っ暗である…。

 4人は顔を合わせて首を傾げる…。


 「連絡用の筒じゃない?」

 レイトラが声を殺して言葉にし、その言葉にスカンとラビリ…ジェミーが顔を合わせてから頷いた。

 「…だれか…いますか?」と2の筒にスカン。

 「…いますか?」と4の筒にラビリ。

 「…だれか…いますか?」と5の筒にジェミーが声をかけた…。


 「…あぁ…いるぞ…」

 男の声が聞こえ、その声に顔を合わせる4人。


 「…助けに来てくれたのか?」

 筒からこもった声が漏れる…。

 「はい…けが人は?」

 スカンが声をかけた。

 「大丈夫だ…慌てて落ちた者が3名いるが…神官がいたから大事にはなってない…ネシラズか?」

 再び、こもった声が筒から聞こえる。

 「はい…多分。今、討伐しますので…そこ…」

 何かの気配を感じたスカンは、目の前にある暗闇へと視線を移した…。


 「あ?ど…どうした?」

 筒からこもった声が聞こえる。


 その声を聴きながらスカンらは視線を暗闇へと移し、ラビリが前に出て、ジェミーが後ろに就き、その傍にいるスカンは筒を手にした。


 「…これから討伐します!しばらく待っていてください!」

 筒に向かって言葉を発すると剣を構えた。

 「…レイトラ…後方の確保!」

 その声に弾かれたように振り返り、松明を向け、スカンはラビリの後方から前方へと松明を向けた。


 薄っすらと見える坑道から、獣の息遣いと共に真っ白に見える靄が、ゆっくり吐き出されている…のが見え…その外殻が、坑道一杯にあるのがわかった。

 外殻が、ゆっくり、坑道の側面をこすりながら向かってくる気配が見える…。

 荒い息遣いが、スカンらと同じ空間へと出てくると、その形が松明の灯りに当てられ、やんわりと姿を現した…。


 「ネ…シラズ…」

 スカンが言葉を発すると同時に、ジェミーが槍の剣先を突き立てた!

 鈍い音と共に発せられる悲鳴にも似た叫び声、その声は坑道全体に響き渡る。

 「ケガをしている…ゆっくり…引き付けながら外まで行こう!」

 スカンが声をかけると一同は頷いた。


 今度はレイトラが先頭で来た道を引き返す。

 ネシラズは首を下げて、松明に照らされた炎の光を、瞳に宿してスカンらを補足している、その瞳の色はオレンジ色。

 ラビリが一歩前にでて盾を突き出して威嚇をすると、左手を伸ばして応戦するネシラズ。

 掻きこむように突き出した手にジェミーが槍を突き出し、ラビリの横から松明を振るスカン。


 その炎を見ているネシラズは、再び、搔き出すように左の腕を伸ばす。

 ラビリの盾に接触するが、両手で盾を持ち、腰を降ろして、引き込まれないように踏ん張り、そのタイミングでジェミーが槍を突き立てる。

 低い位置から頭をのし上げ、口を大きく開いて威嚇をするネシラズ。

 その動きに、鼻先に向けてラビリが盾を突き出す。


 右側の手はケガをしているようである。


 目の前にいるジェミーがその動きを見た。

 「右の手は着くだけみたいだ…引きずっている!」

 「おう!」

 ラビリが左手の攻撃だけを警戒に入ると、右手側にいるスカンが、松明を突き出した。


 「とりあえず、そっちもちゃんと見ていろよ、もしかしたらがあるかも」

 その言葉に「了解!」とジェミー。


 白い息を吐くネシラズの呼吸が荒々しくなってきている。


 「坂だよ!登り」

 後方のレイトラが声を上げ、「了解!」と引き付けている3人が声を揃えた。


 坂を登り「今度は下り!」とレイトラが声を上げ、「了解!」と3人が再び声を揃えた。


 しばらく、ラビリが誘い、ジェミーが攻撃、スカンが威嚇を繰り出した後、壁を木で補強している場所まで来る。

 そこから少し行くとまっすぐな坑道になり出口が見える。

 「もう少し!」

 後方を確認しているレイトラが声を上げ、「了解!」と3人が声を揃えた。


 ……入り口サイド……

 「来たな…」

 入り口を冷ややかな視線で見ているアルベルト。

 「あぁ…」

 ディレクが目を凝らして入り口に視線を向けた。

 その傍で、アサトは、脇に備えている太刀の鞘に手を当てると、その手にシスティナが触れた。


 「…今日は、見ていましょう」

 優しく声をかけてきたシスティナを見て、小さな笑みを見せて頷いた。

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