第10話 いよいよ卒業試験…、『ネシラズ』討伐戦。 下
スカンらの前にアルベルトが腕組みをしながら立つ。
「…今回は、おれから助言をする…」
言葉を発してディレクを見る。
ディレクは、アルベルトの冷ややかな視線に小さくうなずいた…。
「いいかよく聞け、ガキども…」と言い下を見た。
その視線にスカンらも見る。
「今回は、特例だ。こう言う状況でなければ教えられない事だ…。」
スカンらを冷ややかな目でみると、その場を後にした。
?…とスカン…、すると、ギッパが少し離れてから声を上げる。
「わかった!」
その言葉に、スカンら一同が見る。
「ケガだ!けがをしている…、こっちが…こうだから…」
体をひねり、また、逆にひねったりしてから…。
「右…右の前足をけがしている!」と声を上げる。
その声にスカンらはギッパのそばに行き、ギッパは、その足跡がついている道を辿ってみていると、何かの音に、いきなり姿勢を整えた。
たしかに、足音や金属が擦れる音が聞こえてくる。
しばらくその状況をみていると、アイゼンら6名の姿が見えた。
「さて…」とアイゼン。
その傍には、長い髪で無精ひげの男と王国騎士団の象徴、シダの紋章をつけた兵士が4人、計6名が現れた。
「ネシラズを狩ると聞いたからな、俺も見学させてもらうよ」
無精ひげで体の大きな男が声を発した。
アサトは、その者が誰なのか分からなかったが、彼の次の言葉で、何となくわかった、その言葉は…。
「久しぶりだな、クラウト」
アサトはクラウトを見た。
クラウトはメガネのブリッジを上げて小さく頭を下げている。
「はい…、その節は、お手数をおかけしました。フレシアスさん。」
「君の噂は聞いている、俺も、君を手放したことに頭を抱えた…でも」
フレシアスはアサトを見た。
「…君が…アサトか?」
鋭い視線を向けた。その視線になぜか頭を下げたアサト。
「君がいたからクラウトも、能力を発揮できたんだな…」
近づいてきて手を差し出し、アサトはゆっくり頭を上げ、その者を見上げた。
身長はタイロン程では無かったが、十分に見上げるだけの身長であった。
「俺が、格闘派ギルド・エンパイア、フレシアスだ」
ニカっと笑みを見せ、アサトは目を大きく見開きながら、出された掌を握った。
「初めまして…あ…アサトです」
ぎこちない受け答えにフレシアスは、一度噴き出してから大声で笑い始め、その笑いを不思議そうな表情で見たアサト。
「いやいや…オークプリンスを狩ったパーティーのリーダーだから、どのくらい天狗になっているかと思っていたんだ、天狗になっていたら、一発、喝でもいれてやろうと思っていたが…ははははは」と爆笑をしている。
「言っただろう…彼は天狗になんかなっていないし…、目上の人を尊重できない者ではないと…」
アイゼンがフレシアスに声をかけた。
「あぁ~そうだな。最近じゃ、ちょっと力が付いただけでも天狗になっている奴らが多いからな…」
手を離すと、アサトの肩に両手を置いて…。
「負けたのか?」
その言葉に再び目を大きく見開き、ちいさく俯きながら
「はい…恥ずかしい話です…」
アサトの答えに再び豪快に笑い。
「アイゼン!お前の所には、いい子がいるな!」
笑いながらアイゼンを見た。
「…ッチ。ギャラリーは、そろそろ静かに頼むよ」
冷ややかな視線をおくっていたアルベルトを見たフレシアスは、小さくおどけた表情を見せた。
「おっかないのもいたな…」
アサトに向かって、ニカっとした笑みをみせると、何度か肩を握り手を離した。
「あぁ、アルベルト。すまなかった」
アルベルトは、フレシアスに向けていた視線を入り口へと移す。
ディレクがスカンらを呼び寄せる。
「今日の課題は一つだけだ…」と指を1本立たせて…。
「誰も死ぬな!」
その言葉にスカンら一同は大きな声で返すと、入り口へと体を向けた。
「お前たちの教育方法は、俺も見習うべきだな…」
「あぁ…なんならアルベルトでも講師にやるか?」
「あいつはな…」
苦笑いを浮かべるフレシアス。
「必要なら…手を貸すよ」
「あぁ…頼むよ…」
フレシアスが小さく言葉を返した。
彼らの会話をアサトは背中越しに聞いていた。
この教育方法は、パイオニア独自と聞いていた、考えれば、このような討伐戦を見る事は、そう簡単に出来る事でもない、だからエンパイアのマスターが、直々に見学に来たのではないか…。
「作戦は…、ラビリが前でジェミーと俺が入る。レイトラは補佐。ギッパとクレラはここで待て。今、中を見た限りでは、篝火が消えている…、多分、体で篝火を壊したと思う。坑道の大きさの体を持っていると思われるから…入り口で討伐をしようと思う。なにかあるか?」
スカンが大きな声で指示を出し、その言葉に顔を横に振る一同。
「なら…、俺たちが坑道に入ると同時にクレラ…頼む」
背の高くきれいなウェーブのかかった金髪の神官の女、クレラが小さく頷いて長いロッドを握りなおした。
「…ギッパは、闇魔法で精神攻撃の準備…体からして効くかわからないけど」
赤いローブ姿の女魔法使いのギッパ、すでについている黒っぽい魔法石を拭きながら頷いた。
「…闇の魔法か…」
アサトはシスティナを見た。
少し離れた場所のシスティナは、胸に手を当ててスカンらを見ていて、手には細く短いロッドを手にしていた。
システィナの魔法は、闇系の魔法…、その力が集った石が、ギッパが持っている石…となれば…。
エイアイが説明してくれたことをぼんやりと思い出していた。
……今までは、ギッパが持っていた魔法石が、魔法の根源と思っていたが、クレアシアンが使った魔法が本当の魔法であって、ギッパが持っている大きなロッドと魔法石は、なんちゃってなんだ、システィナは細いロッドを手にしている。
そして、ネックレス…。
なんか…不思議な感じがする。
威力は、やっぱりシスティナの方があるのかな…。
システィナはアサトの視線に気づいたのか、アサトを見た。
そのシスティナに向かい小さく笑みを見せる。
システィナも小さく笑みを見せると、アサトの傍に駆けて来た。
「いよいよね…」
「うん…そうだね。楽しみって言えばいいのかな…」
「大丈夫、ギッパさんが持っている闇の魔法をみせてもらったけど、色々勉強になったし、熟練度もあるみたい…場数はかなり踏んでいるようだよ」
笑みを見せたシスティナ。
「…そうなんだ…」
アサトはシスティナを見てからスカンらに視線を移した。
「…それじゃ…行こう!」
松明を手にして声をかけるスカン。
その言葉に一同が頷き、ラビリを先頭にジェミー、スカンが進み始めた。
ラビリは両手で盾を持っている。
「向かって左からの打撃は無いと思うから右だけを警戒して…」
スカンの言葉に頷くラビリ…。
そして、スカンらの卒業試験が始まった…。
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