第8話 そのモノは…なぜかここに居た! 下
「『ネシラズ』!」
アサトは踏み出し太刀を振った。
その太刀筋はネシラズには届かずに、ネシラズは大きな口を開けて咆哮を放った。
「ここから出よう!でたらケイティは、クラウトさんらに報告を、僕とジェンスは、こいつをここから出さないようにしているから!」
声を上げると振り返り、来た道を駆け始めた。
しばらく進むと、アサトは立ち止まり振り返る。
その行動にケイティが立ち止まり、ジェンスも立ち止まった。
「どうしたの?」とケイティ。
「…ついて…こないのか?」
アサトは目を凝らして中を見る…だが、その異様な感じ、真っ暗な中で黒いモノが動いている感じの音は聞こえている。
「まずは、出よう!」
ジェンスが駆け出し、その言葉にケイティも出口に進みだすが、動かないアサトに向かい、「アサト!」と叫ぶ。
その言葉に、アサトは振り返り進みだし…、そして、しばらく進むと、再び立ち止まって気配を探る…。
やはり…向かっては来ているけど…。
アサトは、気配を感じると出口に向かって進んだ。
出口を出ると、ケイティとジェンスが武器を構えている。
「たぶん…けがをしている。来てはいるけどスピードが無いようだ。ケイティ。報告を!」
アサトの言葉に頷くとケイティは来た道を駆けだして行き、ジェンスは剣を構えて出口を見ている。
「…で…どうするんだ?俺たちだけで…やれるのか?」
「…無理だろうね…。でも、ここから出さないし、奥にも返さないようにしなきゃ…多分。工夫さん達は無事だと思う。あの昇降口しか下に行けないとなれば…ネシラズは下には行っていないと思う。」
「そうならいいんだけど…」
ジェンスは柄を握る手に力を込めた…。
「来る!」
アサトは踏み出し、太刀を振るう。
その太刀に対応するように大きな左腕が外に見えた。
「ジェンス!」
アサトの声に、「いやぁ~」とジェンスが剣を振り下ろす。
その動きに穴から鼻先だけを出して吠えるネシラズ。
「出ようと思ったら僕が先に出る。その後にジェンスが振る。これで、この間合いを守ってクラウトさんらを待とう。出したらまずいし、戻られても厄介…」
アサトは苦笑いを見せた。
「討伐した方がいいんじゃないか?」
「出来るならね…、でも、これは…スカンのパーティーの卒業用の対象物だから…討伐は、彼らに…」
「ほんとにか?」
怪訝そうな表情を見せたジェンス。
「まぁ~、はっきり言えば…自身がないのもあるけど」
その表情に苦笑いを浮かべた。
「だろうな…、俺も強くなって、お前に苦労はさせないよ…、旅には相棒が必要だろう」
ジェンスがニカっと笑って見せた。
「ジェンス…、…結婚は…」
「来たぞ!」とジェンスが叫ぶ。
その言葉に弾かれたように踏み込んで太刀を振り下ろすと、再び左手で応戦をするネシラズ。
そこにジェンスが剣を振った。ジェンスの攻撃に、手を引いて穴から首を突き出して吠えているネシラズ。
「…」
まっすぐに入り口を見ているジェンスをアサトは黙って見ていた。
ジェンスの言葉は、アサトの不安と重い気分を晴らしてはいたが、生きて帰って来る事への重圧が、別の意味でのしかかっている。
ただ…、それはジェンスの出している答えであって、その答えがいつか変わるかも…。
でも、その時は、サーシャが言ったように懐の大きな人間になって、笑顔で見送ればいい…と思っていた…。
…ケイティサイド…
崖沿いにある道を駆け抜け、ケイティは、修行場のある牧場へと出た。
修行をしている狩猟者の数は多い、その中で…、腕組みをして、トルースとタイロンの盾の当て合いを見ているインシュアが目に留まった。
その場所まで走るケイティ。
そのケイティを最初に見つけたのがチャ子である。
チャ子は、目を丸くしてインシュアの傍に駆けより、指をケイティに向けた。
その指先を見たインシュアが、目を細めてケイティを見ている。
傍に来たケイティは息を整え…。
「ネシラズ!いた!」と声を上げた。
その声に目を丸くしたインシュア。
「…なに?どこだ!」
「第…10鉱山!」
「…バカな!ここは壁の中だぞ!」
「アサトとジェンスが止めてる!これからクラウトの所に行く!」
一息ついたケイティは、再び走り始めた。
インシュアらの声にスカンとレイトラがそばに来た。
「ネシラズ…いたんですか?」
「あぁ、そうみたいだ。ここに居るなら…とにかく、お前たちは準備をしろ!卒業試験だ!」
インシュアがスカンに言い、近くに放り投げていた大剣を手にして崖に向かって走り始め、その後にタイロンとトルースは顔を見合わせてから、後を追い始めた。
スカンは、小さく息を呑むと仲間へ向かって叫んだ。
「ネシラズ発見!行くぞ!インシュアさんに続け!」
その言葉にラビリとジェミーが武器を手に取り、駆け出しているスカンの後に続いた。
レイトラは、システィナと修行をしているギッパらの所に向かった…。
…アサトサイド…
「はははは…」とアサト。
「マジ…やべぇ~な」とジェンスが苦笑いを浮かべている。
鉱山入り口から見える獣の影は、左手を伸ばして威嚇をしている。
「どんくらいデカいのかな…」とジェンス。
「わからないけど…ホンと外に出られたらまずいよ」
アサトは姿勢を低くして柄を持つ手に力を込めた。
「…とにかく、このじょうきょ…?」
「?」
アサトの言葉の最後に疑問符がついた発音に、ジェンスも目を見開いた。
入り口付近の暗闇に見えていた影が、ゆっくりと奥に行くのが見える。
「まずい!中に入られる…」
入り口付近まで進み太刀を構えた…が、すでにその影は暗闇に浸透していた。
中に入るのも危険が大きすぎる、ただ中に入られては…。
アサトの傍にジェンスが来てなかを見る。
武器を構えたままで中の状況を確認する2人…。
その場には、鳥がさえずる声が鳴り響きはじめ、おだやかに風が辺りの木々や草らを揺らしていた…。
「入られた…な」とジェンス。
「…そう…だね…」とアサト…。
…ケイティサイド…
ケイティはパイオニアの建物に着くと、扉を乱暴に開けて中に入る。
そこには多くのギルドメンバーが飲食をしていた。
その風景を息を整えながら見て、ゆっくりと2階踊り場へと視線を移し、小さく息を吐き出すと、その場所に向かって駆け出した。
「チビ姉ぇ~、元気がいいな!」
冷やかしの声が上がったが、その声に反応せずに2階に上がると、アイゼンの部屋に向かった。
アイゼンの部屋に着くと、これまた乱暴に2枚のドアを開け放ち、大きく息を整える。
その行動に、中で作戦を立てていたアイゼン、クラウト、そして、アルベルトと他パーティーリーダーらがケイティを見た。
「どうした?」
立ち上がりメガネのブリッジを開けて聞くクラウト。
「慌ただしいな…なにかあったのか?」
アイゼンも椅子から立ち上がりケイティに言葉をかけた。
その言葉に大きく息を吸い…そして、小さく吐き…、また、大きく息を吸って、呼吸を整えると…。
「ネシラズがいた!」と大声で叫んだ!!。
「なに?」
アルベルトが立ち上がり、鋭い視線になった。
「どこに!」
チーム・ディレクのリーダー、ディレクも立ち上がった。
「…第…10鉱山!」
「バカな…壁の中だぞ」
ディレクが動き出しながら、荒く言葉を発する。
「…ッチ、いや…これだけ大勢で探して、なんの情報も無かった…となれば、中に居てもおかしくはない…」
アルベルトは、椅子の背もたれにかけてあった外套を手に取ると進み始めた。
「…ディレク。お前の後輩狩猟者の卒業試験だ…急げ!」
アルベルトはディレクに言い部屋を後にし、その言葉に弾かれたようにディレクも動き、膝に手を当てて息を整えているケイティの傍にクラウトが寄って来た。
「…衛兵に連絡を、壁の点検!そして、これから我がギルドのチームが…ネシラズを狩る!と…」
アイゼンが声を上げた…。
そして…。
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