第6話 父を名乗るモノ 下

 午後になると、再び壁外へ修行兼狩りに出る。

 今日も『ネシラズ』の捜索が主であり、北西にある森へと足を延ばした。

 その森は、『デルヘルム』北側に聳え立つ崖から続いている森であり、多くのハンティングベアーが生息する地でもあった。


 スカンのチームとアサトのチーム…と言っても、クラウトはアイゼンの所で監禁状態で作戦を練っている。

 セラとシスティナは、牧場に残ってサーシャとテレニアから指導をしてもらっており、アリッサはポドリアンとグリフに付いて、護衛の依頼に出掛けていた。


 スカンの先輩狩猟者チーム、チーム・ディレクもリーダーが不在であり、今日からポドリアン達と共に行動をしているようであった。なので、スカンらの先輩狩猟者チームとして、アサトらが一緒に行動をしていた。

 ただ、チャ子らも一緒に来ている…と言うか、師匠のアルベルトが野暮用で来られなく、インシュアもこの人数は、一人では面倒見切れないと言う事で、一緒になった。


 覆うようなシダが生える森には、高い針葉樹が陽の光をさえぎっていた。

 道なき道を進む…。

 一応、スカンのチームが先頭で、その後にチャ子、レニィ、トルースとケビン。

 テレニアの弟子のオースティとベンネル。

 アサトにケイティ、そして、ジェンスとタイロンが後ろにつき、最後尾にインシュアが腕組みをして歩いている。


 インシュアの話しでは、この森にいたハンティングベアーの数もめっきり減り、出会えば奇跡のようなレベルであると言う事であった。

 ここから数キロ先に行った洞窟に、グールが根城をはっていると、ニカニカしながら付け加え、ただ、その洞窟は、ただの洞窟で攻略する者もいない、腕試しに狩猟者パーティーが行っているくらいだと話していた。


 確かに…獣道すらない。


 アサトも辺りを見渡す。

 チャ子も警戒をしているが、チャ子センサーに引っかかるモノもいなかった…。


 崖に着くと、そこから東側に移動をする。

 しばらく進むと、『デルヘルム』を囲っている壁に着いた。

 その場で小休止をしてから、壁沿いに戻り、南西の門へと着く、とりあえず、壁に異常が無かった事を衛兵に伝え、今日の壁外修行は終わりであった。

 当然、終了と共にジェンスはバネッサの手伝いに向かい、その後を何故か追うケイティ姫…。

 ほかの者らは、各々の家に帰り、アサトとスカンは再びギルドへ報告に向かった。


 その夜…クラウトが現れ、討伐戦の日時が決まり、また、作戦の草案が出来たと報告に来た。


 作戦は、2つに分かれてクレアシアンの砦を攻めるようである。

 本陣はアイゼンが指揮をして、他、8チームでゴーレムの討伐を行い、アサトのチームがクレアシアンの捕獲へと向かうと言う事であった。


 生け捕りとは、言葉が悪いが、生きて保護をする。

 子供優先の作戦である。

 生きていればいい…と言う事なので、傷をつけても構わない…なので、アイゼンからの要請で、アサトに『』の使用がでた。


 クレアシアンに傷を透ける事ができる唯一の武器である。

 その言葉に生唾を飲むアサト…。


 偵察の情報では、砦にはクレアシアンしかおらず、たまに偵察隊に差し入れまでする余裕があるようだ。

 ゴーレムも黒鉄くろがね山脈を貫くトンネルに1体いるだけで、他は確認できていない、ゴーレムの大きさは、体長8メートルと言う事であり、何もない時は、道の真ん中で石の塊となっているようだ。


 以前、アルベルトとインシュアで、ゴーレムで遊んできた情報によると、ゴーレムは直接攻撃しかなく、魔法や飛び道具らしきものは使わないようである。

 なので、こちらでも石投機を用意して、ゴーレムと戦う案も出たが、石の調達や、石投機の扱いが出来る者もおらず、また、肝心の石投機の準備には時間がかかると言う事で廃案となり、最終的には、倒さず、アサトらがクレアシアンとの戦いが終了するまでの時間稼ぎでいいのではないかと言う事であった。


 ただ、その戦いの中で勝機が見えた場合は、討伐をすると言う事である。

 また、スカンらのパーティーらのような、訓練チームには、規制線を張り、その場から戦場へと進入を防ぎ、増援などの監視をする役目をしてもらうと言う事になった。


 そして…討伐戦は、10日後に決まったのであった…。


 アサトは、クラウトからの話しを聞いた夜に武器庫に入り、久々の『妖刀』に手をかけた。


 確かに…これは『妖刀』である…。

 何故かはわからないが、息遣いみたいなモノを感じ、また、握っている鞘も冷たい…。

 柄を握り、鞘から刃を抜き剣先を立てる…。

 その刃には、鋭く冷たい感じがする光と、うっすらと見える黒紫色の炎のような揺らめきが感じられた…。


 その姿を、タイロンが入り口で腕組みをしながら目を細めて見ている。

 アサトはタイロンへと振り返り小さく笑みを見せた。

 タイロンは肩を竦めてアサトを見ている。


 …いよいよ、この太刀で…戦うんだ…。


 アサトは、ゆっくり、そして、しなやかに太刀を動かし、その揺らめきをみながら思っていた。

 揺らめきからは、光る点が零れ落ちて行くのが見える。

 それが…妖刀の怨念なのかはわからないが、今までの太刀とは違う、毛が逆立つような感じがしていた。


 ゆっくりと鞘にしまう。


 「…どうだ?」とタイロン。

 「…なんか…怖いですね…」

 アサトは、妖刀を壁に仕舞い、タイロンの方へと進んだ。

 「…だろうな…、見ているこっちも、斬られたくないって思ったよ」

 アサトを見て言い、壁に置かれている妖刀へと視線を持って行った。

 アサトは入り口から一度武器庫を見て、小さく呼吸を吐いてから、タイロンへと視線を向けた。


 「あれが…妖刀なんですね」

 「俺には分からないけどな…」

 肩を竦めているタイロンを見てからその場を後にする。

 タイロンは扉をしめてからカギをかけ、一度、その鍵がかかっているかを確認したのち、その場を後にした…。


 翌日…アサトが起きると、すでにジェンスの姿は無く、少し重い気持ちで起き上がりカーテンを開け、扉も開けた。

 夏の日差しが入って来る。


 身支度をして修行場の牧場へとチャ子らとむかい、1の鐘が鳴る前に牧場に着いた。

 スカンらのチームとジェンスはすでに牧場の外周を走っている。


 …討伐戦の日にちが決まったけど…ジェンスはどうするのかな…


 朝起きた時の重い気持ちは、ジェンスを見ただけでも、その重さが増しているのを感じた。


 3の鐘が響き渡り、筋トレをすませたアサトとジェンスは、木刀の素振りに外に出て来た。

 ジェンスにこれから先を聞くのもイヤである…でも、彼が、昨日言った言葉が本気なら…ここで選択をしなければならないのは確かであり…意を決しなければ、討伐戦に連れて行くか、行かないかも…。


 「あの…じぇ…」

 言葉をかけようと思った時、坂を叫びながら走って来る者に気付いた、…のは、ジェンスが先であった。

 「?」

 アサトはその姿を見ている、駆けあがってくるのは女性の姿であった。


 その姿に、「…あぁ…バネッサ!」

 ジェンスは叫ぶと大きく手を振ったが…、その手の振りがだんだん小さくなり…。

 「なんかあったのかも…」とつぶやいた。

 アサトもその姿にただならない事が起きた事が分かった。


 彼女は、泣きながらこちらに向かって走って来る…そして…。

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