第5話 父を名乗るモノ 上
1の鐘が鳴り響く前に牧場に着く。
トルースは背中に盾と両刃の大剣を背負い、ケビンも背中に両刃の剣を背負って先頭を走り、ケイティとレニィは瞼を半分ほど降ろして走ってついてきていた。
アサトは長太刀を持ち、両腰には太刀を備えている、その隣ではチャ子がニコニコ顔である。
ジェンスは…。
何時に出掛けたのかはわからないが、その列にはいない。
アサトは、今朝聞いたジェンスの言葉を思い出していた…
『…俺…あの子と結婚したい…』
…ってか、早くない?
この事を相談できる相手もいなく、アサトは悶々とした気持ちの中で牧場へと続く道を進んでいた。
牧場には、すでに数人の人影が見える、その中にはスカンらの姿も確認でき、また、ジェンスの姿も見えていた。
手伝いを終えてスカンらに合流でもしたのだろう。
牧場の周りを走っている。
その姿を後ろで確認したのか、ッチっという舌打ちが聞こえて来た。
ここは、そうっとしておこう…。
アサトらは牧場に着くと少し体をほぐしてから、スカンらと共に走り始め、ジェンスは、アサトの脇に来て笑みを見せた。
その笑みにアサトも答えていると、目の前にいたチャ子がふいに何かに気付いて立ち止まった。
その行動にアサトとジェンスが立ち止まる。
チャ子はその場を凝視している…、そこは東屋…。
誰なのかはわからないが、そこに背の高く、長い外套を羽織っている人影が見えた、その人影はフードを目深にしてこちらを見ている。
「チャ子?」
アサトの言葉に目を細めたチャ子は、なにも言わずに走り始めた。
「最近…見かけるんだよな~あの人」とジェンス。
「ウン…誰なんだろう」とケイティもアサトの後ろに止まって東屋を見ていた。
…もしかして…あの人が?…。
アサトは、その人影が、あの時…。
アサトらが『ファンタスティックシティ』から帰って来た時に、アイゼンから聞いた、2つの話しの1つの事柄に関連した人物だと、うっすらと思った…。
…その人物とは…
セナスティが、アイゼンらと面会している時に、パイオニアに現れた者がいた。
パイオニアのマスター、アイゼンに合わせて欲しいとの事であったが、来客中であって会えないと言う旨を教えたそうだ、すると、ここで待たせてもらうと言う事で、ギルド内で待つことになった。
とりあえず、要件を聞きにポドリアンが話をしたところ、彼の名前は、『ロマジニア』と言う豹の亜人で、『アバァ』と言う奴隷商人を追っているとの事であった。
この街の近くに出現したとの情報を得て、『デルヘルム』へ来たらしい、だが、この街に入って情報を得ていた時に、『ジーニア』の店で出会ったそうだ…。
『マリアン』と…。
でも、それは、そっくりな者である…歳も格好も違うが…。
だが、その顔には、マリアンの面影があり、その者を追ってこの場所に来たそうである。
いきなり来て質問をするのも失礼と思い、街にて情報を得た。
確かにマリアンに似ていてもしょうがない…彼女は、マリアンの子であるから…。
その者の名は…『チャ子』である。
当時のロマジニアは、この
以前、狩猟者だった彼とマリアンは、旅の途中で出会い、そして、恋をして結ばれた。
狩猟者をやめた彼は、村でキウィを育てて生計をとっていて、結婚して1年後には子供を授かり、これからという時である。
街にキウィの出荷に行ったロマジニアは、産まれてくる子供の為に服や靴、おもちゃを購入して帰って来た…すると…。
村には人の気配が無く、何があったのか確認している内に、村の広場に集められている、斬り放された首が樽の上に置かれ、体は焼かれてある村人の遺体を発見した。
当時、この手のやり口は、奴隷商人である『アバァ』の手口であり、その『アバァ』は、村から女をさらい、男や老人、まだ年ゆかぬ子は殺す、残虐非道な者で通っていた。
その遺体の中には、マリアンの姿は無く、拉致されたと分かり、その後、『アバァ』の行方を追い、オースティア大陸を旅しているとの事であった。
マリアンが拉致されてから13年…。
サーシャがチャ子を見つけた時と歳が合致した。
チャ子は人間と豹の亜人の合いの子、イィ・ドゥ。
マリアンは人間族でロマジニアは豹の亜人…何よりもそっくりなのが…、チャ子にもある、左側のオデコにちょっとある黄色地に黒の斑点。
それが…彼にもあった…。
彼とチャ子を繋ぎ合わせる遺伝であり、また、親子である事を確定させたようなモノであったが、その確証は無い…。
アイゼンとサーシャにあったその日、エイアイから科学的な方法を用いて、ある特定の人たちの間に、生物学的親子関係があるかどうかを見定めることが出来る、鑑定検査をしてみる事を提案され、彼も了承を得たようであり、その鑑定に必要な髪の毛を数本貰ったようである。
その彼が…チャ子を見ている…。
3つ目の鐘が鳴り響く『デルヘルム』の街。
牧場に冷ややかな目をしてアルベルトが向かって来た。
牧場を見渡せる場所に来ると、ロマジニアを見つけて東屋へと進む。
その姿を、筋トレ場の建物からアサトは見ていた。
アルベルトは、ロマジニアに会うと腕組みをしながら何かを話している。
確かに、この件は、おれに任せておけと言っていた…、なにか方法と言うか、考えがあるようだ。
ロマジニアも頷きながら聞き、たまにこちらを遠目で見ている。
チャ子もそうだ、遠くを見る力、遠くにあるモノを感じる力を持っている。
これは豹の亜人の力なのか、それともロマジニア自体の力で、チャ子が受け継いだのか…。
アサトは、2人の姿を黙って見ていた。
しばらく話すと、2人はその場を後にし始める。
ロマジニアもそうだが、アルベルトも建物を冷ややかな目で見ていた。
アサトは小さく頭を下げると、ロマジニアも小さく頭を下げた。
…あれ?前にあった事があるような…。
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