第2話 『リベル』消失から始まる次の波… 下
アルベルトの視線は、アサトからアイゼンに向かっている。
「…もう一つの件は…お前らが当事者だ…だが…、あいつは、一応俺の弟子だ。俺も、俺なりに動いてもいいか?」
「動く?」
「…あぁ、少し…考えがある」
再びアサトに視線を向けるアルベルトの視線は、いつもの冷ややかな視線であった……。
…え?…なに?
「…そうだな…、お前がどう考えているかわからないが、サーシャは、しっかりしているように見せていて、かなり動揺している。…すまんが、私も…」
「あぁ…こう言う複雑な要件は、俺みたいな冷酷な者でなければ対応できない事はわかっている…」
アルベルトは、アサトからアイゼンに視線を移した。
そのアルベルトに向かって…。
「頼む…」
頭を下げたアイゼン。
廊下から多くの足音が聞こえてくる。
その足音を聞きながら
「…あぁ、任せておけ」
頭を下げているアイゼンに向かって、アルベルトが言葉にしていた。
…この件は、とにかく、サーシャさんやアイゼンさんにとって複雑な事、アルさんの言う通り、第三者的な視線で対応した方がいいのでは…と言うか、アルさんの場合は…無茶する事が多いからな…。
アイゼンの部屋に入って来る狩猟者らが、サーシャの先導で現れ、本棚が並んでいる場所にあるテーブルへと向かっていた。
その者らを見て、アルベルトが立ち上がり目を細め、アイゼンも立ち上がると深呼吸をしてみせた。
クラウトはメガネのブリッジを上げてから立ち上がり、その者らの方へと進み始めた。
テーブルに着いたのは、6人である。
上座にアイゼンが座り、右側にアルベルト、チーム・クワッツリーダー、クワッツ、チーム・エラナルのリーダーエラナルの順で座り、アルベルトの向かいにクラウトが座り、その隣に、チーム・ディレクのリーダー、ディレク、チーム・ハンセンのリーダー、ハンセンが座った。
その周りにも7名のリーダーや参謀が揃う。
アサトは、アルベルトの後ろに立ち、状況を見た。これから始まるのは、クレアシアン討伐戦の会議である。目の前にいるのは、チームリーダーや参謀と言われる人たちで、アサトよりも歳は確実に上であり、また、どの者も、その素質を見せているように感じられていた。
…えぇ~、これって……
「…それでは、これからクレア…」
「…あの…」
アイゼンの言葉を遮ったアサトは、手を挙げた。
その手を不思議そうに見ている一同の姿があった。
「どうした?」
不思議そうな表情でアイゼンが聞いてきたので、その言葉にひとつ息を呑み…。
「…すみません。これから皆さんが行う作戦会議なんですが…」
小さく体をすぼませながら言葉にする。
「そうだ…どうした?」
冷ややかな視線をおくり、低い声で聞いてきたアルベルト。
「…あっ。いや…僕は、ちょっと言いにくいんですが…」
アイゼンへと視線を向けた。
アイゼンは目を細めてアサトを見ている。
「…ほんと、言いにくいんですけど…、作戦自体、僕がどうこう考える事も出来ないし、指示も伝える事が…、僕のチームには、クラウトさんと言う参謀がいます。僕は、クラウトさんの指示の上で戦いますから…」
クラウトは、口角を小さく緩ませている。
「あぁ?また、訳の分からない事を言うつもりじゃないのかぁ?」
アルベルトが呆れた表情を見せた。
「…そうか」
アイゼンは笑みを見せながらクラウトを見た。
「君のリーダーは、会議には無頓着のようだな」
「…はい…」
恐縮するアサト。
「…君が良ければいいんだよ、クラウト君」
「そうですね…。アサトには、アサトの考えがあります。アサトがこの席に僕を指名していますので…」
「…はい、会議には、クラウトさんがいればいいかな?って…できれば、僕は修行をしたいと…」
俯きながらアイゼンを見ると、クラウトからアサトに視線を移していたアイゼン。
「はははは…こんなパーティーもあってもいいな…。あぁ、そうしてかまわんよ」
クラウトはメガネのブリッジをあげてアサトを見ると頷いて見せ、その行為をみたアサトは大きく頭を下げた。
「みなさんすみません…よろしくお願いします!」
そのアサトに、一同が大きく笑い声をあげ始めた。
「行って、みんなと修行しなさい」
サーシャが優しく肩に手を当てて笑みを見せ、その笑みに向かい、小さく笑みを見せると部屋を後にした。
「…それでは…」
アイゼンの声が聞こえる。
「私の考えでは…」
今度は、クラウトの声が聞こえてくる……。
…あぁ~、リーダー失格なのかな…。
……牧場……
牧場に来ると、多くの狩猟者が修行をしている。
とりあえず、ここまで歩いて来たので、牧場の外周を走る事にした。
以前、アサトが修行していたその場所には、現在。
目に見えるだけでも50人近い狩猟者が確認でき、その中には、スカンのパーティーの姿も見えていた。
アサトを確認したスカンが大きく手を振って、その向こうでは、チャ子とケイティが、短剣で打ち合っているのが見えた。
ジェンスとケビンも素振りをしているし、盾を当て合っているラビリとトルースも見え、テレニアの傍では、セラとシスティナ、レニィなど数名が話を聞いている風景もあった。
…この場所も…変わったな…。
以前は、何もないただの牧場であって、その牧場の外周は、アサトが毎日走った足跡があり、ポドリアンやグリフが設置してくれた木柱、そして、筋トレしていた場所は、いつしか草が生えなくなってきていた場所…牧場だった。
ただ、その形跡しか残っていなかった、殺風景な風景だったが…。
今では、牧場の外周は2メートルの幅で、草が刈り取られ、その場を走りやすいように整地されてある。
木柱も、しっかりとした木柱に枝みたいなのが何本か刺さっている、と言うか、丸く細い木柱を太い土から立ててある木柱に刺し、それが手、または、武器であるような装飾が施されてある、その様な木柱が20本は確認できた。
筋トレ場は屋根がついてあり、腹筋、背筋するところはもちろん、バーベルと言う、2つのプレートをシャフトと言われる鉄で出来た棒の端につけ、そのプレートの間隔は肩幅よりやや広くされており、シャフトを両手で握って持ち上げて使用できるようなモノまであった。
建物は木の壁で覆われ、大きなガラスも見え、近くに風呂の施設も用意しているようであり、また、休憩用の東屋も確認できた。
とにかく、色々変わった…ここは…。
話しを聞くと、この施設はパイオニア所有の施設であるようだが、時より、他のギルドの狩猟者も通うようでもある。
各々のギルド内で師範証を持つものを用意して、技能取得と訓練を行う事を前提にしているみたいで、その為、アカデミーと言う技能取得の場を利用する者も少なくなり、師範証で食べていた者も、まじめにやらなければ、廃業に追い込まれているみたいで、狩猟者の質事態も上がってきているとの事であった。
パイオニアは、他のギルドには、少しばかりのお金を頂いて、この場所を提供しているようだ
……
午後からは、スカンのグループらと行動することになった、ハンティングベアーの『ネシラズ』探索が主である。
スカンのチームは、卒業試験に、この『ネシラズ』討伐を考えているようであった。
だが、見つからないし、噂も聞こえてこなかった。
何処に行ったのだろう…。
もう既に噂を聞かなくなってから1か月以上は経つと言う。
もしかしたら…それよりも前から見かけていないのかも…と言う話をスカンらから聞いた。
『ネシラズは』立つと4メートル程で、体重も2トンは有るのではないかと言う、その『ネシラズ』が…見つからないとは…。
アサトは、『デルヘルム』近郊の草原を見つめていた…。その影を探して…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます