第1話 『リベル』消失から始まる次の波… 上
数日前の事である。
『グルヘルム』より北東に位置する場所、
多くの木々を倒して、その物体が進んでいた。
物体は…幻獣『リベル』
真っ黒な巨体に赤黒い角、牛の頭部を持つリベルは、ゆっくりと四肢を使って進んでいる。
その傍には、お供と思われるゴブリンやオーク、オーガや獣人の亜人などが数百の数で追随していた。
向っている先は、
?…。
お供のオークが気になった…。
?…。
ゴブリンも見上げる…。
?…。
オークとオーガが、異様な雰囲気を感じてあたりを見渡す…。と…。
『リベル』の足が止まり、そして、ゆっくり膝を折りまげて
その光景を見ているお供らは……。
『リベル』の監視についていた国王軍兵士が足を止め、
その数は、14人。
なびくマントを手で押さえて、音をたてないように、その場に立った。
隊長と思われる者が手で合図をすると、アサシンの技能の取得者が頷き、木を登り始め、多くの木々をわたり、『リベル』全体を見渡せる場所にくると…!
「…そんな…」
1人の兵士が声を上げ、もう1人の兵士が、別の木の幹上に立ち目を見張った。
「…え?」
過去3度にわたる国家的依頼『幻獣討伐戦』で約30000人の命を奪い、赤きドラゴンの襲撃をも耐え抜いた体は、傷つき、片目をも失っていた。
それでもなお、進む事をやめなかった巨体が、立ち止まり、足元から出てきている、やんわりとした靄に包まれて行く。
その光景は、お供らにも異様に見えていた。
目を大きく開き、口を開けているゴブリンやオーク、オーガや獣人の亜人などが、何が起きているかわからない表情を浮べていた……。
「隊長…大変です!…リベルが!」
木々の間を掻い潜って見ていた兵士が声を上げ、隊長と思われる者も、草木の間から、靄に包まれて行くリベルを凝視している。
「…いったい…なにが…」
あまりの異様さと唐突な風景に声を漏らした。
リベルの巨大な体全体が、靄に包み込まれると、音もなく、また、悲鳴を上げることもなく、足元から風に流されながら消え始め、時間をかけずに、その場には、戸惑っているお供らの姿しかなかった…。
そして……。
……現在……
ジェンスは、木で出来た剣を両手で持ち、振りかぶり叩き下ろし、また、振り上げると…叩き下ろす。
これは、流すのではない、叩き斬る…である。
その隣のケビンも振りかぶり叩き下ろし、また、振り上げると…叩き下ろしている。
その隣でも、スカンが太い眉を繋ぎ合わせるかのように、眉間に皺を寄せて振り上げては、叩き下ろしている。
朝の牧場には、ケビンとスカン、そして、ジェンスが修行を行っていた。
午前中は、基礎的な修行をして、午後から各々のパーティーで狩り兼修行を行う。
背の高く細長い体のジェミーが、槍を突き出している姿が見え、盾持ちのラビリとトルースが盾を叩き合わせて修行をしている。
『デルヘルム』に3の鐘が鳴り響く時間であった…。
……アイゼンの部屋……
「これか?」
アルベルトが目を細めて、応接室のテーブルに置かれたモノを冷ややかな目で見ている。
「…そうか…これが…」
同じものをみていたアイゼンは、顎に手を当てて感心していた。
テーブルの上には、紫に見えるが、緑にも見える…、また、オレンジ色に見える時もあれば、赤にも見える…、なんとも光の当たり具合で、不思議な色を発している、三又に割れ、その先端には、紫色の蝋燭が立っているモノがあった。
「これが…『
アイゼンは重く言葉にする、その言葉にアサトが目を細めた。
「アサトが狩った…と言うか、我々が交戦した者が所持していたモノです」
クラウトの言葉に一同はアサトを見た。
アサトは恐縮している表情を見せている。
そんなアサトをみてから、テーブルに置かれた杖を目にして、アルベルトが聞いてきた。
「それで?…マグナル・リバルってのは、本当なのか?」
「はい…確かに、彼は、僕らに向かってそう名前を言っていました」
アサトの答えを聞いたアルベルトは目を細めて杖を見る。
座っているアルベルトの隣にいたテレニアが杖を手に取り、じっくりと柄頭から杖先まで見て、小さく息を吐き、再び、テーブルに置くと目を閉じた。
アサトらは、その姿を見ている。
「本人なら…テレニアもひと安心ってところよね…」
サーシャが声をかけると、その言葉に閉じていた目を開け、小さく笑みを見せた。
「本人よ…」
テレニアはアサトを見て、少しばかりの安堵の表情を見せた。
「ありがとう…」
その言葉に首を傾げるアサト。
なぜテレニアが感謝の言葉を発したのかが分からなかった。
「…とにかく…これで元凶は消える…」
隣のアルベルトの言葉に、小さく頷いたテレニアは、立ち上がると席を離れ始めた。
「…テレニア」
テレニアの表情と行動に、少しばかり心配をしたサーシャが声をかける。
その声に向かって微笑むと部屋を後にした。
部屋を後にしてゆくテレニアの後ろ姿を見ながら、なぜテレニアがマグナル・リバルについて知っているのかの疑問に、アサトは悩んでいる表情を浮べていた…。
「…それで、アイゼン。リベルが消えたのは本当なのか?」
テレニアが出ると同じタイミングで、アルベルトがアイゼンへと視線を移した。
「あぁ、ポドメアから、今朝、ポドリアンへ報告が来た。グルヘルムでは大騒ぎのようだ」
「…なら…、あの吸血鬼を狩った恩恵…というか、奴が消えたと言う事で、間違いはなさそうだな…」
「セラも、契約時に、『この命尽きるまで…』と言っていたのを考えると、マグナル・リバルが召喚した…と言う事で間違いないのかも」
クラウトがメガネのブリッジを上げて、その会話に入ってゆく。
「…そうだな…とにかく…、まだまだ分からない事は多いが、我々にとってマイナスになる脅威は、少しでも晴れたと言う事で…」
燭台を手にしたアイゼンは、サーシャへと手渡して。
「エイアイにでも保管しておいてもらおう」
アイゼンの言葉に小さく頷くサーシャ。
サーシャが燭台を、本棚の傍にある金庫のようなモノに仕舞い、扉に向かって進んだ。
「…それじゃ…ほかの人達も呼んでくるわ」
扉の前に立ったサーシャは、一同を見て言うと部屋を出て行った。
「…さて…、他のリーダーらが集まる前に…」
アサトを見るアイゼン。
「我々には、クレアシアン討伐と、先日話した件があるが」
「皇女の件に関しましては、少し成り行きを見てからと思っています。アイゼンさんが話したように、我々では、荷が重い案件」
クラウトがアイゼンの言葉に同意的な言葉を返し、その言葉にアイゼンは確認したような表情で頷いた。
「ただ…どうも、いやな感じしかしねぇ」
アルベルトが目を細めている。
なにか考えがあるような表情であるとアサトは思った。
「村の者を皆殺しにするのは、兵士のする事か?」
付け加えたアルベルトの言葉に、目を閉じて、ソファーの背もたれに体を預けたアイゼンは、しばらく目を閉じてから、何かを思っているのか、目を開け、表情を引き締めて姿勢を戻した。
「その話を聞いた時に、私も感じた。この街のはずれにいる奴隷商人に関しても…、それに…その手口には、私も少しばかり懸念を持っている……。」
何か思い当たる節がありそうな表情に一同は捉えていた。
「まぁ~、何にしても、俺たちに、非が降りかかるなら…、俺は勝手にでも動くぞ」
アルベルトは、アサトを見て言う。
いきなり見られたアサトは目を見開き、クラウトへと視線を向けた。
「…それと…」
アルベルトは何かを付け加えようとしていた……。
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