風味
だおだお芋
無題
さんさんと光り輝く太陽の下
広大な砂漠の中
大樹がぽつんとが生えていた
旅人はようやく休めると腰を下ろした
旅人にとっては過酷な旅路であった。
自然の驚異に晒され
オオカミに襲われ
強盗に囲まれ
村々で盗まれ暴行され冤罪擦り付けられた
後少しで旅路は終わる
巨木の向こう側、地平線よりかすかに見える
小さなモノリス
それが旅人のたびの目的だった
彼の荷物はわずかな食料と水
それと石材加工用のノミ
旅路にて沢山の人と出会い沢山の物を失った
野党にささげ
死にかけた老人へのせめてもの手向け
オオカミから逃れる為に投げつけ
貴族に奪われ
なにもなくなった。
そして、ようやくやってきたのだ、あと少しだ
後少しでこのボロボロのノミでモノリスに
私の名前を刻みそこでやっと眠れるのだ
嗚呼 やっと休める。
そう、安らかな気持ちになっていると
背にしてる巨木の幹から不可思議な音が聞こえた
「もし、もし旅のお方」
旅人はとうとう気が変になったかと
それでもまあ構わぬかと返事をした。
「なんだい?」
旅人の言葉に呼応するようにザーザーと巨木の枝がウネった
はてさてとうとう、旅人は自分の眼もおかしくなったかと思ったが。 まあ やつぱり それでも構わぬと思った。
「ええ。ええ。旅のお方あなたに話しかけているのです、私はここに長くぽつんと生えている木の精でございます。見てのとおり同族も何もおらず周りは砂ばかりでして、大変に暇でございますもので。宜しければ旅のお方の話をきかせてくれませんか?」
はてさていよいよ頭がおかしくなってきたかと、旅人はそう思いながらも。巨木に向き合うように座りなおし、頭をひねりながら話しかけた。
「一体全体、どういうことなんだかわからないし、お前さんが木の精か僕の”気のせい”かしらないが、まあ・・・もう目的地も見えた、ここいらで少しばかしゆっくりお話してもかまわんか、良し手持ちの食料が尽きるまで話しでもするとするか」
旅人はなんだか無性に話したくなり、次々と自分のことを話した、最後だからと今まで人には決して言えぬ事や色々な事を全て話した、また"気のせい"も旅人の話を喜んで聴き、自分の事も話した。
その内に夜が更け 日が昇り 何度も何度も お天道様が 出たり消えたりを繰り返した。
夢中になって話していると、旅人はその内にもっと話したくなってきた。
だが食料や水はもうほとんど無い、"気のせい"にそれを告げると悲しそうに枝葉を揺らした。
一息 二息 三息 無言が続く
"気のせい"は出来れば一緒にもっと話したいといった。
旅人は無性に嬉しくなり、僕もだと言った。
出来れば一生ここで話したいと。
"気のせい"は悦んだ。
しかし旅人はどうしてもモノリスまでいかぬばならぬことと
食料と水が無いと言った。
"気のせい"はならばモノリスまで行って再び帰ってくればいいという。
「その内に私の枝葉に果実がなりましょう
それは旅人さんを満たすには余りあるほどたくさん実りましょう」
確かに、モノリスまで行って自分の名を彫らねばならぬが。
それで命ついえるものかどうかはやってみねばわからぬ。
それから一刻の内に旅人はモノリスへ行く為に
地平線の彼方を目指し再び歩みを進めた。
距離はさほどではあったが旅路はより、過酷であった。
燃える木々が地よりせり上がり 旅人を只管になじる
巨大な竜巻が旅人の前に立ちふさがり 肉を削り取られ
豪華絢爛な装飾をした奇妙な盾と剣に 旅人を使ってどちらが優れた道具かを試され
自分と同じくモノリスを目指していたであろう旅人の成れの果てに襲われ
ほうほうのていでようやく…ようやくモノリスにたどり着いた旅人はやせ細った手でなんとか なんとか
モノリスに名を刻んだ
最早動く力を失っていた。
だが彼は 振り絞り歩む
”気のせい”のもとへと戻る為
一歩一歩と歩み始めた
やがて、月日が立ち”気のせい”が巨木に果実を生らした
今日も巨木は地平線の彼方に”居た”旅人を見つめている
無用となったたわわな実が空しく風に揺れた。
風味 だおだお芋 @ohimo
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