第4話
「人間様は、意味を理由を欲しがる。意識して勝手に苦しんでんだ。笑っちゃうよ。それは戦国の世の方がマシだったのに、平成の世になってみりゃ、救いようのないくらいに、そう、もう救えたもんじゃない。」
両手を大きく、鳥が翼を目一杯広げるように広げて小首を傾げる。
その手が表すのは、ただの人間の馬鹿さ加減で、いっそこれ以上を行くのだと言いたげに目は揺れた。
忍の言っていることはよく
自殺が多くなった、と言いたいだけに付け加えてついでに呆れておこうかと笑うのだ。
忍は意味や理由を無駄に求めないのだろう。
あの時も、そして今も、どうせ。
人間臭い忍だと思いながら、それと同時に人間離れしていると知っている。
「あの頃のこちとらなら意味も理由も要らなかった。我が主の為に、って言ってりゃよかったからね。」
寂しげに肩を落とし、手を降ろした。
それは、現在ではもう主がいないということを表す。
現代に、
本や教科書に残っていても、だ。
それを、この忍は知っている。
戦国時代ならば己の居場所がそこにあったのだろう。
平成時代な今現在、もう、己の居場所なんて無いんだろう。
それを心底寂しがっていることくらい、察することは出来る。
忍はこの神社が最後の居場所になるんだ。
先程、札を破り捨てたように、此処を居場所とは認めていないのだろうが。
「今の時代、人間様が余計に悪趣味な思考を巡らせてるのにも、同情するよ。こちとらには、
今にも泣きそうな切ない声で、そう愚痴った。
顔を伏せ、息苦しいと息を吐く。
これが現状。
忍は平和な世では生きていけない。
第一次世界大戦だとか、原爆だとか、きっと忍はそれを何処かで耐え忍んで呆れていたんだろう。
戦の移ろいを、
「いつ、武雷家は滅んだんだ?」
その問い掛けが地雷を踏んだ。
忍はその目を見開いで胸ぐらを掴み上げた。
「失言は命取りだってこと、まさか忘れたわけじゃないでしょうよ。あの戦国を生き抜いて、現代までも逝けずにいるこの忍を前にして、いい度胸だよね。死にたいなら殺すよ?喜んで殺すよ。」
恨めしそうに、憎たらしいとばかりに、そう首を睨まれてその目に射抜かれる。
殺気が突き刺さって、殺意が耳を殺したがって、息が苦しくなってくる。
クラクラと脳みそが揺れるような、気持ち悪さが這い上がってきては、この忍の少しの脅しにさえも耐えられない程に弱くなった此方に気付く。
忍はわかっていて手加減をしている。
最悪、殺気だけで現代の人間を殺せるのだと、理解ってはいるのだろう。
いくら、戦国の武士が生まれ変わっているのだとしても。
パッと手を離して、地面に足がつけばふらりとよろける。
やっぱりそうだ。
「やめてよ。滅んだなんて言わないでよ。まだ、探してんだから。帰るべき居場所があるって信じさせてよ。」
弱々しく忍は吐き出す。
心の内に溜め込んだ、その情言を。
「お願いだから、希望を持つくらいは、許してよ。そうじゃないと、こちとら、壊れちまう。」
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