第2話

「悪趣味だよ。」

 忍は横たわる此方こちらを見下ろして呟いた。

 その足で此方を蹴り転がして、顔がよく見えるようにしておいて息がまだあると気付けば水を得た魚のようにその目を爛々らんらんとさせる。

「そう、思わない?」

 自分で喋れないようにしておいて、問い掛ける。

『お前の答えは聞いてない』と言わんばかりに酷い行為だ。

所詮しょせん、名乗りを上げて相手を知れども、それってつまり殺してくれって叫んでるようなもんなのに。」

 武士を馬鹿にして呆れるような声が薄らぐ視界の何処かで語る。

「あんたら人間様は、殺されたいのかい?何が礼儀?何が武士?贅沢ぜいたくが過ぎるんじゃないの?」

 愚痴ぐちのようにも聞こえてきた。

 それでもケラケラと笑い声が動けない体を嘲笑あざわらうように響く。

 長い付き合いであっても、忍には関係なくて。

 だからこうして、殺し損ねておいてそれさえ好都合に、『今生最期の語り合いでもしようじゃないか』と。

 友人とも思っていなかったのだろう。

 此方がずっと劣勢だったのも、この忍が上手く働いていたのだろう。

 此方は裏切られた気持ちにでも勝手になっていたけれど、やはり忍は忍だった。

 そうだ。

 この忍は変化へんげの術で見た目を疑えない者へと似せて近寄るわけでもなく、忍のままで声をかけて気付かない内にこんな懐にまで潜り込んでいて。

『お前には術を使うまでもない』と今突き放された感覚だ。

「贅沢なんだよ。無駄に飾り付けたり無駄を当たり前としちゃってさぁ。羨ましいねぇ?だって忍は、戦忍は、」

 そこで声が途切れた。

 その手が、此方の視界を遮断して、真っ黒になる。

「あんたが苦しくないように、痛覚は切っといたから。けど、もう動けやしないでしょ。」

 一転して声を控えてそう優しさを晒す。

 突然の変化には追い付けずわけがわからない。

「どうする?楽に逝かせてあげようか?一瞬で。」

 その誘惑の言葉に身を委ねたい。

 もう、死ぬはずなのに長いこと息が絶えない。

 そろそろそれが苦痛となりそうで。

「あんた、本当に運がないんだねぇ。悪趣味だよ、本当。」

 最期それが聞こえてから意識は途絶えた。

 その言葉が何を指していたのか、察す暇さえ与えてくれないで。

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