それを言葉遊びというならば

影宮

第1話

「神様を信じるか?」

 その問いかけにカラカラと意識のない笑い声が色気もなく目の前の背の主がさらす。

「『存在』の話?」

 振り向く必要はない、けれども振り向くんだろう。

 ほら、体を綺麗に片足を軸に左回り。

 クルリと回って此方こちらを向けども気味の悪いほどに作り笑いでしかない表情が未だにカラカラと。

 この忍は様々な笑い方を知っており、全て演じて魅せることが出来るのに、さて心の底から笑え、なんて言った時には心底嫌そうな笑みを浮かべて『これで満足だろう?』と狡賢ずるがしこい逃げ方をして魅せてくる。

 心の底から笑うというをやろうともしない。

「どっちでもいい。」

 そうぶっきらぼうに言い放てば、蛇が舌舐めずりをするように目を細めるのだ。

嗚呼ああ、そういうことね』と言っているのが読める。

 長い付き合いだからこそ相手の心が少しくらいは読めるようになって、でもそれを嘲笑あざわらうようにこの忍は初対面から此方の心を全て読んで先回りしてきた。

 それは今でも変わらず、また先回りをするんだろう。

「どの道、どうとでも言える話だね。」

 その目は背景を眺めている。

 人の目を見ようとしない目を見ていると、不自然でもなく怖いほどに自然と目が合わない。

 目をそらしてるわけじゃないから、こうも自然なんだろう。

 外から見ればわずか目線がズレていることに気付かない。

 実際されてみなくてはこの便利さに気付かない。

 目を合わせるのは、相手を射る時なのだと知っている。

 目を見ないのは、相手に興味を示していないから。

 そして、首を見つめる時は、殺気すら殺した殺意。

 それくらい、あまりにも長い付き合いの中で外から眺めていて知った情報。

 目は口ほどに物を言うが、この忍もそうだ。

 相手へどう思っているか、あるいは相手に何を企んでのことかだけを無駄無く簡潔に表すようだ。

 情は語らない目は、まるで作業のように目線だけで狙いを示す。

 死んだような雰囲気で、心臓ここには何もない、空っぽなんだと見せておいて、ただ上手く隠しているだけの。

「あんたは信じてるわけ?」

 ひゅっ、と珍しく音を立てて呼吸を素早く行った。

 息が苦しいわけでもないくせに、そうやって音を立てる。

 わかってる。

『こっちを見ろ』と言いたいんだろう。

 不自然を自然とやってのけて、それでいてちゃんと自分の目的は達成させている。

 この忍は、自分のことをあれこれ探られたり考察されるのが気持ち悪くて嫌いなんだと言った。

 それはつまり、自分はであって、ではない、ということを示している。

 空気の手綱たづなを手に持って、もし此方が道を故意こいにでも逆らって外れようとすれば、手綱を引っ張りいつの間にかその道へと連れ戻される。

 そして此方は、連れ戻されていることにさえ気付かない。

 いや、この忍が気付かせないんだ。

 どれだけ逆らっても、欺かれている。

「俺は信じない。」

 くだらない話題だ。

 それを提供したのは此方ではあるが。

 忍はケラケラと狐のように笑った。

 今度は面白がっている。

 何が面白いのかはわからないけれど。

「あんたは神様信じてないわりには、意味も無く神社に訪れて、頭を下げるんだ?」

 その指摘は今日のことだ。

 そして、今のこと。

 この神社の主はこの忍。

 忍神だなんて面白い、と思っただけだ。

 それだってさっき言った。

 それでもそう指摘するんだろう。

「本当、悪趣味だよね。」

 忍装束は無駄無く見えて、体に沿ったぴったりとしたものだから、細い腰もわかる。

 中性的な顔も声色も、性別を混乱させてくるけれど、きっと女なんだろうな。

 長い付き合いだ。

 死んでも転生して現代に来てからは、会って一時間くらいしか経っていないけれど、死ぬ前、転生する前からだとかなり長い付き合いなんだ。

 忍はあれから一度も死なずにここに忍んでいるらしい。

 長い付き合いだったのに、性別を察するのが今更であるように、忍は厄介な程に昔から変わらず混乱を手招いては、手綱を気分都合に合わせて引っ張る。

 本当に、この忍に殺された瞬間さえ思い出せるくらい、忍は変わってない。

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