第31話 地下へ闇へ
にやりと沢渡は笑う。
男達から敵意があふれでた。
敵は実にいい男達だった。殺すことにためらいを覚えないほどのイケメンだった。
(とはいえ、このままフルオートで撃って皆殺しはいまいちか)
沢渡の頭の中で計算が走る。訳のわからない所に転移させられて、事情を知っていそうな敵を全部無造作に殺すのは、賢くないだろう。
(結果的に全部死んじゃうならともかく。けれど三人以上は必要ないのも確か)
全員を人質にしても、ここには沢渡一人しかいない。三人以上の人質は扱いきれない。
(三人は殺す。一人は残す)
沢渡は息をゆっくり吸って、長く吐き、そしてふっと動いた。
ニヒルな男に一呼吸で接近し、銃剣で腕に切りつける。うめいてもニヒルなままのその顔にセミオートで三発撃ちこんだ。
そのまま敵の間を走り抜け、熱血イケメンの前でしゃがむ。
周囲の男達は沢渡に銃を向けるが撃てなかった。
(同士討ちなんか考えず問答無用で僕を撃てば終わっていたのに)
沢渡を見失って硬直する熱血イケメンの足を、しゃがみ蹴りで刈る。
倒れ込んだ熱血君の腹に勢いつけて銃剣を押し込み、熱血君の体を蹴り飛ばして銃剣を抜いた。
そして妖女の方にスピードを落として走りだす。
沢渡を撃てずにもどかしさで騒いでいた男達が、それに釣られた。
もっともひっかかったのはマッチョ系イケメンだった。
「アーヤーをやらせん!」
そう吠えて妖女をかばおうとまわりこんで散弾銃を構えた。
沢渡はその下をかいくぐり、アサルトライフルで三発ぶちこんだ。
絶叫をあげて崩れていくマッチョを背に、王子様に回し蹴りをたたきこんで吹き飛ばした。
見ると、熱血イケメンが根性を振り絞ってライフルを沢渡に向けている。
無造作にライフルを向けると熱血イケメンの瞳が絶望に染まった。
銃声は二発。沢渡への銃弾はそれて、沢渡が撃った弾は胸にあたった。熱血イケメンはそのまま動かなくなった。
沢渡は背後でうめく王子様を放置して、女へ向かった。
女の左手にある転送機は、焦げて一部溶けていた。もう使い物になる感じはしない。
「よるな! 私に触るな!」
わめいた女に、沢渡はなんのためらいもなく、女の体の至近に銃弾を乱射する。
「僕を襲っておいて勝手だな? GPFの警告文を読み上げてあげようか? さあ手を後ろにまわして」
沢渡は腰から手錠を取り出し、後ろにまわした女の両腕にはめた
そして女を立たせて、後ろに振り返る。
わざと一人残した王子様が必死に銃を構えて近寄ってきていた。
「アーヤーさんを離してもらおうか」
沢渡の返答は、女の顎に銃剣ごとライフルを突きつけることだった。
王子様の秀麗な顔をいらだちに歪ませることができて、沢渡は心を晴れ晴れとさせたのだった。
「君は、女性にこんなことをして、恥ずかしいとは思わないのか」
前で王子様が吠える
アーヤーという妖女は無言で歩いていた。
「女性とは愛しみ、武器を捨てて抱きしめるべき存在だ。なのに君は!」
「いいから、だまって初心者のところに案内して。あんまりにも無駄口をたたくと、この女に少し痛い目にあってもらうけど?」
「なんという卑怯者だ!」
王子様イケメンは見事な騎士っぷりを発揮していた。
もちろん王子様は脅迫に屈して銃を捨て、捕虜二号になった。手錠はもうなかったので、沢渡は王子様イケメンの背中にまわした腕をテープでぐるぐるまきにして固定をした。
「それにしても、自分も巻き込んで転送するとはね」
応急処置を施しながら、沢渡はアーヤーにつぶやいた。
「暴走したんだよ!! あのポンコツ」
「そのわりには、たいしたお出迎えだったじゃないかい? あんたは前に比べて弱くなった感じだけどね」
止血をしつつ皮肉った沢渡をアーヤーはにらんだ。
「この体はまだ馴染んでないし、あいたっ……元もたいしたことないからしかたがないんだよ」
「その体は憑依して乗っ取ったNPCの体だろ? ひどいことを言うんだね。かわいそうに」
沢渡はやれやれとため息をついた。
「NPCなんか、魂のないロボットに過ぎないだろうが」
「僕はあんたに魂があるかどうかが疑問だね。あんたに比べればNPCの方がずっとずっと人間らしいよ」
腹が立って沢渡は包帯をきつくまいた。それが沢渡の最大の意地悪だった。
沢渡は脅し文句とはうらはらに、人質をとったが拷問はしなかった。軽い尋問をしたにとどまった。
沢渡が拷問をしない理由は簡単だ。
痛めつければ真実をしゃべるというのが幻想に過ぎないと知っていたからだ。
拷問でしゃべる言葉は、痛みから逃れるためだけの言葉で真実とは限らない。
「本当のことを言えば?」と言いながらいじめられた記憶がある沢渡にとって、拷問とは拷問をする側が望む言葉を求める儀式に過ぎないという実感がある。
だから真実に噓を混ぜられた場合、検証する方法がなければ、かえって拷問している相手にはめられることになる。
沢渡一人だけでは確かめようがない情報を自白した時、敵の思惑にひっかかる可能性があると沢渡は思っている。
故に沢渡は、尋問だけにとどめて拷問はしなかった。人権問題とは無関係にだ。
女とイケメンが尋問にすべて答えたわけではないが、初心者の情報についてそれなりに回答したので、拷問をする必要もなかった。
尋問での回答は、誘拐された初心者達がここにいると言うものだった。
このイケメン達は看守役で、ここに転送された初心者を捕縛して、牢に運び入れていたのだ。
だから武装している割に鈍いのだなと沢渡は思った。負傷した初心者を複数で取り押さえて牢に入れるだけの簡単なお仕事なのだろう。
さらに初心者達が捕らえられているのは、この下の地下牢獄だと沢渡は知る。
沢渡は、
だがつながらない。フレンドにも巡察警兵局にもつながらない。
発信音すらせず、ネットワーク圏外の警告が出るのみだった。
沢渡は建物の天井を見上げる。
崩落した天井から夜空が見えるのに、つながらないということは……
(ジャミングか。失踪者から連絡がないのもうなずける)
そして、外に出て連絡できる所を探すか、初心者を救出するのを優先するか、沢渡はしばし迷った。
(救出して味方を増やした方がいいか)
決断を下した沢渡は、なにかとうるさい王子様と、いたって静かな妖女を連れて、地下牢獄に向かって階段を下りていった。
地下は全てがよどんでいた。空気はより一層かび臭く湿気が多過ぎてべたついている。
廃墟の地下は、何層にも及ぶ牢獄の集まりだった。
地下一階から最下層まで鉄格子つきの鉄製扉が立ち並ぶ、牢屋のマンションみたいなものだった。
ただ牢の部分には照明も人の息づかいもなにもない。
弱いとはいえ照明がある階段から見ても、闇の中に沈む牢の廃墟の中まではわからない。
階段を下りるに従い、一層だけ明るい階があるのがわかった。
そこが地下四階だった。
傷んでいるものの、この層の牢は、牢としての機能は保たれているようだ。
ぼんやりとした光を発する安っぽい仮設照明が牢内のところどころにあり、暗闇になれた瞳には充分明るく感じた。だが人の声はない。牢とは思えない静けさだった。
「静かだけど、全員殺したの?」
「ふん、殺してもここで生き返る。心配はいらない」
「僕らが死に戻りを許すわけがないだろ」
殺意で少し声が低くなった沢渡の尋問に妖女が嘲笑し、王子様が無駄にいばった。
ここに入れられるとリスポーン地点がここに設定されるらしい。
ぼんやりとした照明が点いている廊下を進み、鉄格子で区切られた入り口まで沢渡達は歩いていく。
「牢の鍵を出して?」
その言葉で二人が心底嫌そうな顔をしたので、沢渡は心の底から愉悦を感じた。
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