外伝

五頭龍に愛の微笑みを

夕暮れの江ノ電

 夕暮れの町中をゆっくりと走る江ノ電に揺られて、野沢とアマネは江ノ島を目指していた。

「なあ、マジで龍窟に潜るのか?」

「当然! 怪奇現象の究明と解決も私達の仕事ですよ? あっれー、もしやアッキー怖気づいちゃいました?」

 野沢は腕を組んで、車内の背もたれに背中を預ける。

「ああ、怖じ気づいてるよ。龍窟ってあれだろ? 富士山の鳴沢氷穴の地獄穴まで続いているっつう伝説がある所だろ?」

「そうですそうです。勉強熱心ですねえ。愛してるぜ」

「バカにしてんのか。……しかし仮に繋がってるとして、歩いたら約八十キロの距離だ。さらに内部が複雑に曲がりくねっていたら、それ以上の距離になる。ざっと計算しても丸一日休まずに歩いて到達する距離だぞ? 本当にそこへ行こうってのか?」

 アマネは膝上に置いたバスケットからサンドイッチを一切れ掴み、野沢の口に放り込んだ。夕暮れに照らされた濡羽色の長い黒髪に彼は見惚れる。

「あくまで伝説の実証ではなく、怪奇現象の解決が目的ですからね。それさえ達成してしまえば、後は江ノ島に引き返すだけでござりますよ。あと一応、山が絡んでるし、お父さんの手がかりも見つかるかもなのでテンション爆上がりだぜ。今風に言うと、胸熱? いや、ドキがムネムネ?」

 ふがふがと、彼女に詰め込まれたサンドイッチを頬張り終えると、

「ふーむ。そう上手くいくかね。……つか全然今風じゃねえし」

 野沢は心配そうにアマネを横目に見た。彼の憂慮に気付く様子は無く、当の本人はハグハグとサンドイッチを口に詰め込んでおり、実に幸せそうであった。

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