第6話 昼間の世界


ボクは書庫で本を作る仕事をしている。

どんな本なのかは一言では言えない。ただ覚えている限りでは、昨日あったこと、おとといあったこと、明日起こること、明後日に起こることが書いてある紙をまとめて、工場で決められている通りの大きさと束にまとめて綴じ込み帳にとじてまとめていって棚に戻していく作業だ。

毎日しているわけじゃないけど、仕事場では順繰りに、誰かがその日の当番としてその仕事をしている。


最初はなんでも珍しかったけれど、最近は淡々と仕事をこなすようになってきた。

それでもたまに間違ったりするから、そんな時はコーヒーを飲んでほっと息抜きをする。


人の記憶をまとめるのは骨が折れるし、紙束が重すぎて腕が痛くなることもある。

それでも、この仕事をやってて楽しいなと思うこともある。

こうやって、自分の記憶を書き出すのも立派な仕事だし、自分でつくった自分の記憶も、綴じ帳にまとめて絵付きでとじていくんだから。


たまに、自分がいったいいつの自分なのかなって考える。

こうやって記憶をまとめている自分は、きっとまたどれかの自分の記憶なんだろうし、その記憶を思い出している自分も。きっとまた別の時間の自分なんだろう。

自分の記憶を綴じていくとき、その自分もまた別の自分に綴じられる。

そのまた自分も、自分に綴じられる。

それもまた自分に綴じられる。

永遠に。無限に。


そうそう思い出した。

昨日は、豪華な肉を食べたよ。とても美味しかった。

その時に味わった肉の味は、こんな書類にはとても書けないよね。

キミには伝えられない。報告書に肉の味なんて書けない。

この肉の味を知っているのは、この本のなかでは、キミに綴じられているボクだけだ。



そんな、なんでもないひととき。

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