第4話 地下に響くマントルの囁き

10月28日


足元を流れる耳障りな音、水の流れる音で目が覚めた。

オレは闇の世界、いつもの異空間にやってきていた。

暗闇の世界には、所々に真っ白な光が灯っている。薄暗い世界でもすぐに目が慣れた。この世界は、暗い。昼間の仕事の世界とは違う、オレの内面を思わせるような、暗くて、歪んでいて、静かで、生き物たちの気配がする世界だった


この世界には宝玉がある。オレは宝玉(ほうぎょく)と勝手に呼んでいる。それを手に入れて使うと、とても気分が良くなるのだ。

正確には、気分が悪くならないとか、昼間の世界でどんなに嫌なことがあっても宝玉を使いさえすればなんとかなるのだ。

最近はどこを歩いてみてもそれが見つからない。赤みを帯びた物や青色……澄んだ海の色をもっとも透き通るような青色にしたようなものが昔はあった。

最近は真っ黒な宝玉を手にすることが多いが、これは使うとその瞬間は気持ちよくなるが、次第に憂鬱になり、使わない方がマシと思われるくらい体がだるくなる。

後悔とか、使って損したとか。そういうネガティブな念に囚われる。


昔はどれがどんな効果があるのかよく分からなかった。

使ってみて良かったもの、悪かったものを体感で感じて、オレは悪い癖だと思っているが、メモは取らなかった。


だからだと思うが、目の前に死んで時間が経った死体があった。

女だ。きっと前任者だろう。この異空間にきて旅して回っていた変わり者。

オレは自分のためにわざわざこの世界にやってきているが、正直嫌々だが、彼女は率先してこの夜の異空間にやってきて色々なものを見て回っていた。


彼女はオレの前任者だ。オレがこの世界で眠りから覚め、動き出し、昼と夜を行き来して、まるで歩く死体のように生きるようになる前にこの世界にいた前任者だ。

オレは彼女を知っている。

彼女は死んだ。

オレが殺した。もうこの世界に、彼女は必要ない。


彼女が生きていた頃に使っていた亡霊のマント。

空飛ぶ死に馬。自在に伸び縮みする小剣。トラベルバッグ。


そのうちに彼女は生き返り、ゾンビとなってオレを追いかけ始めるだろう。

オレは地面に転がる彼女の頭蓋骨を、踏みつぶそうとした。



できなかった。



オレの武器は、黄金色に輝く偽物の剣。

書きかけの護符。

三世代前の、光る電子盾。

オレはこの武器だけで、地底の最奥に活きる化け物を倒さなければならない。

化け物を倒せば、きっと宝玉があるだろうから。


そんなことを思っていると、ふとオレは、生前の彼女がこの地底世界の地図を作っていることを思い出した。

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