第47話

 「本当に、ありがとうございました」


 この島唯一の桟橋。

 そこに、僕は立っていた。


 「こちらこそ、ありがとうね」

 片付けられない幸栄さん。

 「元気にするんじゃぞ」

 息子の心配をしている長老。

 「元気でね……」

 優しかったこの島の人たち。


 みんな僕を見送ってくれた。


 「本当に……ありがとう」

 

 言って、僕は船に乗る。

 そして、徐々に船が島から離れていく。


 優しかったこの島を忘れないでおこうと、僕は瞬きを止めてずっと島を見つめた。



        * * *


 帰りの船に揺られながら、僕は次に行く場所を考えていた。


 日本の自然は制覇したと言っても過言ではないくらい行ったから、次どこに行くかなかなか決められない。


 今まで行こうとしなかった所。

 僕はそこに行こうと思った。


       『東京』

 

 一番避けていた場所に、僕は行くことに決めた。


        * * *


 東京は日本の首都だ。

 当たり前に他県とは人口の比が違う。


 電車に乗るのさえ一苦労だった。

 いくら周りを無視しようとも、僕は人殺したちと触れることになる。


 「次は千代田~千代田です」


 電車の扉が開き、やっと僕は解放された。


 むさ苦しい汚れた空気を越えて、僕はある場所に向かう。

 歩いて、歩いて、五分経った頃、それは見えた。無駄にデカいし、無駄にきれいだ。


 こんな所デカい必要もきれいな必要もないのに。無駄に金がかかっている。

 

   国会議事堂が目の前にあった。


        * * *


 国会議事堂──日本の国会が開かれる場所であり、このクソみたいな法律を決めた建物だ。


 まあ、別に来たからといって何もする事はない。出来ることと言えば、国会議事堂に入っていく議員を睨むことぐらいだ。


 「もしかして、見学しますか?」


 突然、女性に声をかけられた。

 見学をして何になるのかは知らないが、暇だから見に行くことにする。


 「します。させてください」

 

        * * *


 結局、僕は何もしなかった。

 見学といっても何もする事がなく、ただ椅子やら壁やらを蹴って汚しただけだった。


 つまらない見学を終えて、僕は手持ち無沙汰になり、街をうろついた。


 祭のような人の多さに舌打ちを打ちそうになるのを抑え、前に進む。

 意味もなく歩くことは、虚しいだけだった。僕は外観が華やかな道路を抜け、東京にしては簡素な道に出た。


 すると『占い』という小さな札を掲げたテーブルが見えた。

 テーブルは紫の布に覆われ、テーブルの上には水晶玉が置かれている。


 「すいません、占ってもらえますか?」


 テーブル手前の椅子に腰掛けた、怪しげな老婆に僕は声をかけた。

 普段、僕は占いなんてやらない。

 それでも、声をかけたのは老婆の手が緑だったからだ。

 

 「いいですよ」


 僕は老婆の目の前の椅子に腰掛ける。

 それでも老婆はたじろぐ素振りすら見せなかった。


 「大丈夫なんですか? 殺されるかもしれませんよ?」


 僕は不思議に思った。

 弱そうな老婆が緑のまま生き残っているなんて普通に考えればおかしい。


 「あたしゃ占い師だよ。それを含めて占うのさ」


 ずいぶんな言い方だった。

 確かに、僕が殺さないと知っているから、老婆はここにいるのだ。


 「あんた何を占いたいんだ?」

 僕は少し悩んで、言う。

 「僕は人を殺しますか?」

 「…それが、占って欲しいことかい?」

 「そうです」


 人は殺さない、そうは思っていても本当にしないのか、正直心配だった。


 「じゃあ占うよ」

 そう言って、老婆は水晶に手をかざした。

 数秒の間があり、老婆は顔を上げる。


 「でたよ」

 老婆はそう言って、僕とがっちり目を合わせる。

 「……どうでした?」

 僕は少し緊張しながら聞く。


 辺りは僕と老婆しかいないのに、なぜだかざわざわしている気がした。

 風の影響かもしれないし、何かしら不思議な力が働いたのかもしれない。

 そんな中、老婆が口を開ける。


 「お前は……」

 妙な間があって、老婆は告げた。



    「お前は、人を殺すよ」    




ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー

説明書 No.47


人の気持ちがあるからこそ、人は人を殺す。

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