第48話

    「お前は、人を殺すよ」  


 老婆の言葉に僕は少し、引きつった。


 「本当に僕が殺すんですか?」

 「ああ、そうだ」 

 「いつ頃ですか?」

 「この一年の間だ」


 老婆は冗談を言ってる風ではなかった。

 至って普通に、平坦に言った。


 「なぜ僕は殺すのですか?」

 「そこまでは知らんが、とにかくお前の行動によって一人の人間が死ぬ」

 「……そうですか」


 まあ、所詮占いだ。

 なんて考え方もあるかもしれないが、老婆の言い方には何か信憑性が感じられた。


 「この占ったことは変えられますか」

 「未来は基本的には変えられんよ。お前は人を殺す。これは変わらないよ」

 

 老婆は相変わらず、平坦に言った。

 そうか、人を殺すのか。


 「人殺しについてどう思います?」

 「私はなりたくないね」

 「なぜですか?」

 「占い師にとって死は不吉なのさ」


 そう言って、どこかから死神のタロットカードを出した。カードの中には鎌を持った骸骨が笑っていた。


 「占い師にとって死は一番引きたくないんだよ。自分のも、他人のも、ね」


 老婆はおもむろに他のタロットカードも出して裏返し、そこに死神のカードを混ぜた。


 「どれ、引いてごらん」


 老婆はそれこそ不吉な笑みを浮かべた。

 僕は迷いなく、真ん中のカードを引く。

 タロットカードは八十枚弱、その内の一枚を引くなんて普通に考えて、ない。


 「……えっ」

 「ほれ、見せてみろ」


 僕は引いたカードをテーブルに置いた。

 そこにはさっき見たばかりの骸骨がまた不気味な笑みを浮かべていた。


 「未来は変えられないんだ」


 何か悟っているように、老婆は言う。

 

 「それでも僕は殺しません」


 今のところ、僕は人を殺すつもりもないし、これからも殺さない、と思う。

 でも、僕は死神を引いた。


 「まあ、頑張りなさい」


 老婆は言って、死神のカードを裏返した。

 そうして裏返された死神は他のカードと混ぜられ、どこにあるかはもう見えない。

 

 でも、きっと、僕はまた死神を見つける。

 

 

ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー

説明書 No.48


死にたいと思っても、人は死ねない。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る