仔犬のような動き
【 1回表 】
1番国分。
三枝カズの初球。
外角低め。
いきなり143キロのストレート。
・・・速っ
躍動感あるなぁ。
何だかフォームも若々しいし ……
カズの外角低めいっぱいのストレートはホントヤバい。
左打席に立つと何せ球筋が見えない。
俺なんて最後までヒッティングポイントが掴めなかった。
・・・まあ俺の大昔の印象だけど ……
2球目。
間をおかず左打者の腰を引かせるフロントドアのスライダー。
いいコース。
「ストライクツー !」
2球で追い込んだ。
国分が一度打席を外した。
いったんカズの間をリセット。
さすがマトリックスの核弾頭。
そのあたりは抜け目がない。
3球目。
シュート系の抜いた内角のボール球。
肩の高さ ……それを国分が溜めて ……いきなり振り抜いた。
・・・ あっ !
ライトに高くあがった。
ドームが大きく響めいた。
京川がゆっくりとバックしている。
大きな当たりだが京川はすでに落下点だ。
そして丁寧に両手でキャッチした。
スタンド全体が揺れた。
まるでスーパープレーを見たかの如くの大歓声。
三塁側のマトリックス応援団まで拍手していた。
・・・さすが
難しいフライではないが、それでも慣れないポジション。
多少は慌てて、あたふたしてもおかしくない場面だが、京川の動きには何の迷いもなかった。
カズは実に穏やかな表情をしていた。
大ベテランの200勝投手といえども平常心を保つのが難しい、この大一番の立ち上がり。
やはり大沢が構えるミットが安心感を与えているのかも知れない。
何せバッテリー歴20年。
ヒョロヒョロのガリ勉高校生をここまでの大投手に育ててくれたのは、間違いなくこの先輩なのだから …
そしてヒロへの想い。
大沢と一緒にバッターとの駆け引きを楽しむ …その醍醐味をヒロから見事に受け継いだ真面目な後輩。
魔球こそ西崎が受け継いだが、ヒロのDNAは間違いなくこの男に宿っている。
今シーズン、ヒロの事を知ってからの後半戦のピッチング。
その渋みの増した枯れた投球術に、カズの秘めたる想いが滲み出ていた。
2番の神田には低めいっぱいのスライダーをうまくミートされた。
しかしサード真正面。
トーレスが落ち着いて捕球したが ……
送球が高くなった。
192センチのファースト、森田圭佑はその送球をジャンプもせずに難なく捕球。
ケースケも相変わらずの安定感。
「ツーアウト !」
カズが内外野に2本の指を示した。
僅かに白い歯が覗いている。
・・・珍しい
ポーカーフェイス卒業か ?
何にしてもいい表情だ。
そして ……
『3番、センター蒼野』
三塁側マトリックス応援団から雄叫びのような声が聴こえた。
パ・リーグの首位打者。そして盗塁王。
永遠のトリプルスリー男。
このシリーズ、4本のホームラン。
その内1本は、第2戦に先発したカズから放った一発だった。
決め球のスクリューをレフトスタンド中段に突き刺した。
初球。
外角低め。
バックドアのスクリュー。
「ストライク !」
2球目。
また外角低め。
144キロのストレート。
「ストライクツー」
簡単に追い込んだ ……いいテンポ。
・・・躍動感凄いな
3球目。
内角低め。
144キロ ……
・・・えっ ?
蒼野が走りながらドラックバント。
ここでまさかのスリーバント。
カズが、完全に逆を突かれた。
コータもケースケも動けない。
「うわっ !」
突然ボールの前に飛び出してきた大きな男。
一塁線を辿るように転がるボールを右手で掴んで、蒼野の背中をぶち抜くような送球。
余裕でアウトになった。
・・・大沢
なんちゅー反応。
まるで ……
ボールを追う仔犬のような動き。
「はははっ 」
思わず声を立てて笑ってしまった。
・・・
優深に睨まれた。
とにかく初回チェンジ。
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