勝つ確率は5%以下
ライトスタンドが異常に盛り上がっていた。
キャッチャーマスクを外した京川が外野でボールを回している。
鴻野からの送球を捕球する度に拍手喝采が巻き起こっていた。
トシが外れたのは残念だが、京川が入ったしろくま外野陣 ……決して悪くはない。
しかし気まずい。
“ 負ければ全部大沢のせいにされる ”
そう言ったきり優深は黙ってしまった。
長期離脱、復帰戦で4番 …キャッチャー。
とんでもない重圧がかかるだろう。
確かに負ければ全部大沢の責任にされてしまうシチュエーションだ。
ずっと酷い目に遭ってきた大沢朔からすれば、大沢の出番なんて見たくないのだろう。
だが、マトリックスに勝つ為には大沢が絶対に必要。
それは京川を含めたチームメイト、監督コーチ、チームスタッフ全員の総意なんだと深町さんは言った。
“ 水野、大沢が中心にいて、思う存分野球を楽しむ ”
それが深町監督が築いてきたホワイトベアーズというチームだ。
・・・だから、見る方も大いに楽しめばいい
「勝つさ」
俺がそう言うとまた優深に睨まれた。
「しろくまが北見投手から得点出来る確率はかなり低いです。たぶん最後にはマザラ投手が登板します。しろくまは今日、この二人の投手からほとんど点が取れません。完全にデータがそれを示しています。そしてこの試合、三枝投手は最低6イニング投げなければ試合にもなりません。それより早い降板になればしろくまは大敗します。さらに三枝投手がマトリックス打線を6イニング無失点に抑える事はデータ的には不可能です。結果、しろくまがこの試合に勝つ確率は5%以下です」
優深が感情のこもらないコンピュータのような言葉を並べた。
・・・厳しっ ! ……機嫌悪っ !
そう数字通りにいかないのが野球 ……なんだけどなあ
なんて優深を見ているととても言えない。
「だから ……この試合にだけ大沢選手が出るのは、朔くんをまた苦しませる結果にしか ……」
優深が声を震わせた。
・・・
大沢朔の地獄。
それをずっと見て来たんだな。
「それでも ……勝つさ」
俺は子供のように同じ言葉を繰り返した。
・・・どっちが大人かわからないな
たかが野球。
だがこの一戦には、南洋市民長年の悲願がかかっている。
そして ……ヒロの望み
それを叶える為に仲間たちが必死に闘っている。
トシもヒロの為に必死だった。
・・・
そんなそれぞれの想いも、虐めの切実さからすれば大人の身勝手でしかないんだよな。
・・・どんどん気まずくなる
モヤモヤが深まる中 …
試合が始まった。
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