私はもう強がれない


右の頬に祥華の掌があった。



「タカさん ? ……どこか痛いの ? 先生呼ぶ ?」


・・・夢なのか



俺の目は祥華の瞳に覆われていた。

鼻先が触れそうだ。



「先生 ?」



「 だって涙 ……どこか痛むんじゃない ? 」



・・・現実なのか



目の前の祥華は昔と少しも変わらなかった。

やはり大学生のようだった。



「いや、どこも痛まない」



「痛くないのに泣いてたの ?」



「元々大した怪我してないし ……泣いてないし ……」



「嘘」



「えっ ?」



「満身創痍 …半死半生 …ボロ雑巾にしか見えないわ」



・・・雑巾



「そこまでの怪我じゃない」




「ずっと連絡取れなくて ……」



「えっ ?」



「メールも既読スルー」



祥華が睨みつけて来た。




「いきなり撃たれて ……」



「・・・」



「死ぬほど首を絞められて ……」



「猛スピードで木に突っ込んで ……」



「救急車で運ばれて ……」



「びっくりして病院に駆けつけたら ……」



「もぬけの殻」



「あ、いや ……いろいろ」



「そしたらまたすぐに大量失血で緊急搬送」



吸い込まれるように惹き寄せられた視線はすぐに弾き返された。




「優深ちゃんが言っていたわ」



「優深 ?」



「タカさんはいつだって不正義と闘ってるよ…って」



・・・不正義




「いつも弱者の味方なんだよ…って」




「タカさんが命掛けで、少女を救った…って」




「あ、いや ……」




「私もそんなタカさんが大好きだけど ……」




・・・




「音信不通 …生死不明なんて ……」




「・・・」




祥華の頬 ……



一条の光の粒が伝った。



泣き笑いの面差しが胸に刺さった。




「優深は強がってるけど ……」



「私はもう強がれない」



「年中タカさんの心配をしてて ……いつの間にか自分を見失ってて ……わがまま言う優深が疎ましくなって ……」



・・・



「叩いたの」



・・・えっ



「三年前」



「だから ……」



「優深のためになんて言ってたけど ……本当は自分を取り戻したくて、マンションを出たの」



「・・・そうか」



〜 あなたは優深に愛おしさを感じていますか ? 〜



・・・俺は



「本当は私がもっと強くなって、タカさんを支えないといけないの」



「いや ……」



「でも …………無理みたいなの」



・・・そうか




「優深、志木さんと会ったの」



・・・



「優深にしてはよく喋っていたし、初対面にしてはいい感じだった」



・・・そうか



「それはよかった」



「私 ……志木さんと再婚します」

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