夢だと分かっていながら …
何故だろう ?
ずっと祥華の夢を見ていた。
夢だと分かっていながら、ずっと見続ける事が出来た。
……………………………………………………
「ごきげんよう」
・・・ごきげんよう ? 皇室か
「ずいぶんと不似合いな所にいるんだな」
「ここが ? そお ?」
祥華は驚いたように首を傾げた。
きれいな顔立ちをした女だった。
まるで、気高い中国人のように自信に満ちている。
何ひとつ自信の持てなかった俺は、正直気圧されていた。
“ 水野を見に来ていた女 ”
すぐにそう思い、無意味に臆してしまう自分が腹立たしい。
「
・・・
「
・・・先に上を覚えろよ
「勿論、呼び名を決めるためよ!」
「
「だめよ。……タカさんでいい ?」
・・・妙に馴れ馴れしいな
「俺はなんて呼べばいい ?」
「天野っち」
「カンベンして ……なんて名前 ?」
「
「そのままそう呼んでもいいか ?」
祥華は何も言わずに無表情で頷いた。
……………………………………………………
「気晴らしに絶叫マシンにでも行くか ?」
祥華が来橋教授の話に落ち込んでいたので、俺の高校時代を思い出して誘ってみた。
しかし祥華は、俺から誘われるのを待っていたようだった。
「それより貴さんの運転でドライブがしたい。いい ?」
・・・でたっ
・・・だめ ? じゃなくって、いい ?
「・・・いいよ」
祥華とは護衛係以来、何となく付き合うようになっていた。
島の話だと大学では公認カップルになっているらしい。
と言っても大したデートもしていないが ……
それにしても、何故こんなお嬢様がいつも俺と一緒にいるのかは謎でしかない。
きっと “ 何かと便利だから ” って事なんだろう。
要するにボディガードをずっと継続しているようなものだが、俺も特に嫌でもなかった。
意外と気が合う。
お互いに物珍しい存在だっただけかも知れないが、まあそんなのも悪くはない。
なんて思いながら、実は祥華とのドライブに結構舞い上がっていた。
……………………………………………………
「ゴメンなさい。今お弁当を作っているから少しリビングで待っていてもらえるかしら」
・・・弁当 ?
そう言って出迎えてくれた祥華は、薄グレーの割烹着を着ていた。
俺のメンタルはその時からおかしい。
いつも見せつけられているお嬢様ファッションとのギャップにやられた。
・・・ヤバい
両親は外出しているようで、祥華一人だった。
俺の住む寮のワンフロア分もありそうな広大なリビングに通された。
身を固くしてソファに縮こまっていると、割烹着が香り高いコーヒーを運んで来た。
何だかわからない、クリーム色の角砂糖みたいなお菓子が添えられていた。
「もう少しお待ち下さい」
そう言って割烹着が忙しそうにリビングから駆けて行った。
祥華が着ると地味な割烹着も、妙にオシャレだ。
お菓子は柚子風味のホワイトチョコだった。
「これうまっ !」
未練たらしくいつまでも、舌を動かしながらコーヒーカップを持った。
・・・ !
コーヒーがまた絶品だった。
俺は生まれて初めて本物のコーヒーを飲んだと感じた。
俺がコーヒー好きになったのは、この時の味が忘れられないからだ。
たぶん、チョコの風味とその時の高揚した気分でそう感じただけの事だろう。
俺の味覚なんてその程度だ。
コーヒーを一気に飲み干すと、広過ぎる空間に尻がムズムズしだした。
「コーヒーごちそうさま ……俺、車にいるから」
俺は立ち上がってキッチンらしき方向に声をかけた。
「はーい。すぐ行きまーす」
それからかれこれ 30分。
しかし、朝から割烹着を着て弁当を作る女だとは思わなかった。
なんか ……悪くない気分だ。
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