洋平を逮捕すれば …
しろくまが南洋ドームに帰って来る。
明日、まさかの日本シリーズ第6戦。
水野が ……カズが ……コータが ……龍太郎が ……カッキーが …… ケースケが ……
30半ばを過ぎた南洋大の仲間達がここに来て更に輝きを放ち続けていた。
すべては ……
ヒロの笑顔の為か。
スーパールーキー京川聖に引っ張られる形でトシたちルーキー6人も躍動していた。
投打に圧倒されながらも、ベテランと若手の融合で王者に食らいついている。
そんな中、いま目の前では ……
その攻守の要であるべき男が、一軍に呼ばれる事もなく、白瀬川の河川敷で仔犬と戯れている。
その思いたるや ……
〜 ヒロを本当に喜ばす事が出来るのは大沢しかいない 〜
西崎の言う通りだ。
確かに大沢の復活なくしてヒロに真の笑顔はないだろう。
ヒロが待ち望むもの ……
それは大学時代と同じように大沢秋時、水野薫を中心としたチームが日本一となり、南洋市民と喜びを共にする事なのだ。
そんな事は大沢が一番分かっているはずだ。
だが、もうどうにもならない。
「悪いな。行ってくれ」
「あっ、はい」
梨木がすぐに車を出した。
「主任もワンコ好きだったんですね」
「・・・まあ。俺の実家でも昔、犬を飼っていた」
「えっ、どんな犬だったんですか ?」
「ハスキー」
「わぁー、シベリアンハスキーですか ? いいなあ。私も ……… ……… ………… …… 」
梨木の話を聞きながら、もう一度河川敷を見た。
もう大沢は見えなくなっていた。
梨木は犬の話で夢中だった。
犬ばかり見ていて、あれが大沢だとは気づかなかったようだ。
結構距離があったし、まさか大沢がこんな昼間の河川敷で犬の散歩、なんて夢にも思わないだろう。
すべては18歳の俺が蒔き散らした種。
あの時 ……
大沢はただヒロの妹を守っただけだった。
それだけなのに、この俺のしでかした愚行が大沢をここまで苦しめているのだ。
・・・歪んでしまった親の情動
「主任はここでじっとしていてくださいね」
梨木の声で我に返った。
目を外に向けると、しろくまドームの敷地内に入るところだった。
球団事務所はドーム内にあるのだ。
「何から何まですまないな」
「ぜんぜんです」
ほとんど車のいない広大な駐車場に入った。
その一角に球団関係者専用の表示が見えた。
確かに、こんな包帯だらけの大きな男が足を引き摺りながら訪ねて行っても、相手をビビらせるだけだ。
GMの携帯番号を教えろと言うわけではない。梨木の携帯番号をGMに伝えて欲しいとお願いするだけなんだ。
梨木の方が適任だろう。
車が停まった。
「それでは行って来ますね」
「ああ、頼む」
球団事務所に向かう梨木の背中。
その向こう側に鎮座する巨大なドーム。
ドームを覆うガンメタ色のルーフが、秋のひかえめな陽光を受け十字に煌めいていた。
・・・明日、ここのグランドに大沢を立たせたいなあ
・・・ !
「あっ !」
思わず声をあげていた。
何故 ……
こんな事に気づけなかったのだろう。
今日 ……
被害者を救出し、洋平を逮捕すれば ……
千葉監督は野球どころではなくなる。
凶悪犯罪者の家族 …父親が監督として日本シリーズに出場するわけにはいかない。
第6戦、千葉正利はここには来れない。
指揮は監督代行が勤める。
監督代行は通常、ヘッドコーチだ。
ヘッドコーチは佐久間さん。
佐久間さんなら ……
大沢をすぐに呼び戻す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます