処刑場


「この先に大きな公園があります。とりあえずそこのパーキングに入ってもらいます」


信号が青になった時、後ろから何の感情も見えない丁寧な声がアナウンスされた。


・・・安間川公園 ?


野球場やテニスコートのある運動公園で、10年ほど前に島夫妻とテニスをした事があった。

島の奥さんは高校時代、シングルスの県ベスト4の強者で、あの時俺は死ぬほど走らされた。

確か50台くらい入りそうな大きな駐車場があった。


懐かしいな …そこが処刑場ってわけだ。



・・・


今通り過ぎたコンビニに、青いスカイラインが蹲っていた。

ずいぶんと目立つ色。

確か ……ディープオーシャンブルーとか言ってたな。

正面を向いたまま目玉だけでチラ見した。


・・・ ん ?


続いてすぐにファミレスの駐車場で黄色いコンパクトカーも見つけた。


サイドミラーには相変わらず白いカムリも写っている。


状況が読めんが ……



「そこを左です」


蓮見喬太郎が丁寧に公園の入口を教えてくれた。



ウインカーを出す。


左折して、10メートルほどで右手に駐車場の入口がある。

結構明るかった。

野球場は真っ暗だが、テニスコートには照明が点いていた。

駐車場にはテニスコート側に7台の車が停まっている。


「右奥のあの大きな木の前に停めてください」


野球場側の暗い一角。


・・・木か


ハンドルを大きく右に切って減速せずに大きく旋回する。


“ うっ ”


不意に脇腹に疼痛が走った。

銃口を強く押して警告してきた。


“ おかしな動きはするな ” とでも言いたいのだろう。


だが ……


もうそれは無理だ。




大きな木。


そこに向かって徐々にアクセルを踏み込む。



「おいっ !」


レスラーが初めて声を発した ……と同時に首が絞まる。



“ ぐがっ ! ”


一瞬で意識が飛びそうになる。

左手で若造の手ごと銃を掴んだ。


“ いっ ! ”


その左手にナイフを突き立てられた。


・・・なんつー早技



“ うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ ”


さらにアクセルを踏み込む。



喉が ……


潰れる。


視界が消える。



それでもハンドルを握った右腕を突っ撥ねる。


車が縁石に乗り上げた。


両足を踏ん張り、頭を思いっきりヘッドレストに押し付ける。


車体が跳ねるように木に突っ込んだ。


左手もハンドルを握る。

手の甲から血が吹き出した。

両腕を思いっきり突っ撥ねる。



ガッシャーン !



強烈な衝撃。



不意に細紐が緩んだ。


そこに指を捩じ込む。


渾身の力で手をこじいれる。


紐が顎にかかった。


何とか頭が抜けた。


すぐにエアバッグが膨んだ。


それを避けるように頭を摺り下げ、ノブレバーに指をかけながら右肩からドアにぶち当たる。



“ クシャッ ”



背後から間抜けな銃声が聴こえたが ……



弾は逸れたか。



車から転がり出て、そのまま植え込みにダイブした。



すぐに立ち上がり ……



・・・



立てなかった。




“ くそっ ”




酸欠で…




動けねーぞ。




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