野舘
寡黙なカローラが、国道1号線から浜名バイパスに入った。
10分ほどで浜名大橋が見えてきた。
右に遠州灘、左に浜名湖。
ここの夕陽は絶景スポットだ。
最後に見たのはいつだったか ……
休日のドライブ帰り ……
祥華と優深と …
確か三人で見たな ……
・・・もう見れないんだな
肢に穴を穿けられ、腹に銃を突き付けられ、首に紐をかけられ …それでも妙に感傷的になっている。
そんなのも俺らしい。
何故かそう思った。
無音のカローラが宵闇の海上を東に進む。
一度大きく息を吸った。
呼吸は問題なく出来た。
ただし、まったく動けなかった。
首をヘッドレストごと細紐で絞める。
ずいぶん効率的かつ効果的な方法だ。
感心している場合じゃないが ……
バイパスを抜け、また国 1に戻った。
右手に中田島砂丘 …ここから国 1は内陸へ向かう。
景色が徐々に色付いてきた。
浜松の市街地に入って行く。
「そのまま東名に入りますが、その前にちょっと車を停めてもらいます」
後ろから紳士的な声。
久しぶりに聴く音声だった。
それほど見事に誰も喋らなかった。
〜 行き先は富士 ? ……それとも清水から第2東名に入るのか ? 〜
・・・なんて訊く気もない
何か訊く事に意味はないし、どうせ洒落た答えなんて期待出来ない …ましてや話す事で隙を作るなんて甘い連中じゃなさそうだ。
ただ、男を一人消す。
そのミッション完遂のみに集中している。
こんな事、何度もしているのだ。
こいつらならまず失敗はないだろう。
・・・高速に入る前に始末する
恐らく、殺されると分かっているヤツに高速道路を運転させるリスクなんて負わないだろう。
インターに着く前に ……
消される。
ん ?
・・・やっぱりおかしい ?
3台後ろ ……白のカムリ。
運転席におっさんぽいシルエットが見えたが ……暗くてよく分からないが ……
バイパスに入った頃から、付かず離れずの運転だった。
南洋市から国1、浜名バイパス、国1、浜松市街地と走る車は、腐るほどいる。
だから同じ車がずっと後ろを付いて来てもおかしくはない。
だが、後ろのカムリはまさに付かず離れずだった。
俺も尾行には敏感なつもりだが ……
カムリの動きは読みづらかった。
一瞬、対向車のヘッドライトがカムリを照らした。
・・・
あれは …………野館 ?
何故 ?
捜査現場に戻りたい一心で、皇太子を嵌めて自分の後任処分を画策して、富士宮署に飛んで行った男 ……
が何故こんな所に ?
信号待ちになった。
カムリは右車線の3台後方に停まった。
一体 ……どういう ?
・・・ えっ !
青信号側の左から青っぽいスカイラインが出て来て左折 ……浜松インター方面に曲がった。
すぐに続いて ……
黄色いコンパクトカー。
スイフトスポーツがスカイラインの後を追って行った。
・・・
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