行き先は …


薄闇でいきなり発砲。


そしていきなり車に乗り込んで来て、マッチョが首を絞めてきた。


さすがに恐怖を感じ、同時に死を覚悟した。



…… だが


事の荒々しさに比べ、今車の中は至って穏やかな空気だった。


横からコンパクトなハンドガン ……恐らくグロック26 …9口径を突き付けている大学生のような男だけでなく、後ろで細紐を持つマッチョからも殺気は感じられない。


そして一言も言葉を発しない。


寡黙で冷静。


まさしくプロの仕事を思わせた。


もはや “ 死 ” から逃れる事は出来そうにない。



「足元に落ちたパソコン、それとスマホをこっちに下さい」


後ろの席からやっと穏やかな声が聞えた。


・・・パソコン ?



言われて初めて座席の下に落ちているパソコンに気づいた。

暗い足元で開きっ放しのディスプレイが4分割の映像を映し出していた。


・・・マンションの監視をしていた事もバレてる



ミラーで見るとスーツ姿の男 ……60歳くらいの老紳士と目があった。

サングラスもマスクもない素顔。

どこか県警の王様を思わせる風貌。



・・・やはりか


知っている顔だった。


蓮見喬太郎 。


蓮見泰嗣の私設秘書と言われる一族の長男。


たぶん間違いない。




足元のパソコンに手を伸ばすと首に食い込んだ細紐が微妙に緩められた。


ディスプレイを閉じて片手でパソコンを持ち上げた。

すぐに後ろから丸太が伸びて来た。

パソコンを渡すとまたすぐに首が絞まる。


助手席の男が、インパネの上にあるスマホを

紳士に差し出した。

銃口を脇腹につけたまま、、左手で俺の全身をまさぐる。

流れるような動き。

まったく無駄も隙もなかった。

持ち物検査が終わると、タオルを差し出して来た。


・・・?


「少し、運転してもらいます。それで傷口を縛っておいて下さい」


後ろから業務連絡のような声。


運転中、失血で気絶でもされたら困るもんな。


タオルを巻くため、両手で左膝を持ち上げてみた。


いっ !


激痛が脳天を突き抜けた。


汗が脇の下を伝った。


ふぅ


しばらく動きを止めた。



徐々に痛みが表面的になってきた。


痛いには痛い …がよく見ると重傷ではなかった。


弾は抜けていた。


血の沁み込んだシートを触ると穴が空いていた。

太腿の裏 ……下の方を撃ち抜いて貫通させた。


左のハムストリングス ……出血は続いているが、思ったほどの傷では無さそうだった。


いきなり撃つ ……いきなり首を絞める。


なるほど…


獲物をビビらせるには、効果的な方法なのかも知れない。



とりあえず、傷口の辺りをタオルできつく縛った。



「運転して ……どこに ?」


ミラーの中の紳士に尋ねる。


「1号線に出てずっと東に向かって下さい」


・・・


東 ?



エンジンを始動してハンドルを切る。


コンビニの駐車場から通りに出た。


銃はずっと脇腹につけられたままだった。



「ずいぶんと無口なんだな ?」


若い男に声をかけてみた。



「仕事ですから」


真剣な口調が普通に返ってきた。



・・・そうか、仕事か


これがプロの集中力か。



さあ、どうする ?


運転しながら頭の中で活路を模索していた。



車内では沈黙が続いていた。

それどころか、息遣いの気配さえなかった。


南洋の街並みはひっそりとしていた。

みんな野球観戦中か。


10分ほどで1号線に出た。

左折する。



東へ ……



やはりか。



行き先は ……



富士青木ヶ原。



樹海だ。



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