プロ


別に警戒していなかったわけではなかった。


だが、そいつはあまりにも普通 …というか自然過ぎた。



人の気配に顔を上げると、いつの間にか車の横に影が立っていた。

特に特徴のない大学生くらいの若い男が助手席側のウインドウを “ コンコン ” と叩いた。



「すいません」


若い男がペコっと頭を下げた。



「どうしました ?」


ウインドウを下げながら、男の顔を確認しようと上体を下げた時 ……



“ クシャッ ”


空のペットボトルを踏み潰したような音。



・・・えっ ?


俺の ……左の太腿が勝手に跳ねた。



「なっ !」


すぐに強烈な痛覚が脳天を襲ってきた。



・・・撃たれた ?



咄嗟にインナーノブに指をかけ、右肩をドアにぶつけ ……



・・・マジか


ドアは開かなかった。


いつの間にか運転席側にも人影。



若い男が、小さな銃口を俺の顔に向けたまま助手席に乗り込んで来た。


何の表情も読み取れない。

銃にはサプレッサー …消音器が装着されている。



もしかして ……



これがプロってヤツか ?




後部ドアが開く音。


後ろに顔を向けきる前に、ヘッドレスト越しに丸太のような腕が首に巻き付いて来た。



クソッ


俺は間髪入れず、丸太に右拳を叩き込んだ。



・・・硬っ


こっちはレスラーか ?


すぐにレスラーの顔の辺りを狙って、左肘を跳ね上げた。


・・・!


肘を上げた瞬間、空いた脇腹にすぅーっと銃口がつけられた。



動きを止めると不意に丸太の圧迫がなくなった ……が、すぐに細紐のようなものが喉仏に食い込んで来た。


ぐっ



さほど絞め付けてはこない ……が、完全に動きを封じられていた。




『抜けたぁ ! 三遊間真っ二つ !』



『鴻野涼介、初球のチェンジアップを見事に狙い打ちました。さあ、ワンナウトで願ってもないランナーが出ました。そしてお聞きください ……この大歓声です。

“ 2番キャッチャー京川、背番号51 ”

ここマトリックスフィールドでも、この男だけには大声援が送られます。今、スーパールーキーがゆっくりと左打席に ………… 』



助手席の男がラジオのスイッチを切った。



目玉だけ動かして、銃を突きつけている男を観察した。


やはり、何の特徴もない普通の若い男にしか見えなかった。

そして何の感情も読み取れなかった。


また後部ドアが開く音がした。


3人目がレスラーの横に座る気配がしたが、もう確認する事も出来ない。

首に食い込んだ細紐で身体が完全に固定されて、全く身動きができなかった。



左脚の脈動が大騒ぎしていた。


それに呼応するように何かが滴っていた。


黒ずんだものがシートに見る見る広がっていく。



・・・クソ痛え


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