第八章 白熊
【 茶番劇 】
10月22日。
コンビニの駐車場。
100メートルほど先に聳え立つタワーマンションの白い威容。
カーラジオのスイッチを入れた。
何事 ? と思うほどのハイテンションなアナウンサーの興奮声。
相変わらずラジオの野球中継は実況の盛り方が凄まじい。
日本シリーズ第5戦。
おそらく今夜 ……
マトリックスが日本一を決める。
第6戦は行われない。
それも宿命 ……
いや、それも自業自得というヤツだ。
ラジオ中継を聴きながら膝の上に乗せたノートパソコンを監視する。
今晩で2日目になる。
4分割のディスプレイには防犯カメラの映像が映し出されていた。
マンションの入口。三階のエントランス。地下駐車場につながるエレベーターの扉。非常階段通用口。
この4箇所を監視すれば “ ホワイトステージSINMEI ” に出入りする人間はまず押えられるだろう。
千葉洋平の住むマンションの防犯カメラに侵入し、その映像をパソコンで監視出来るようにしてくれたのも “ いんふぉーまんと ” だった。
蓮見一族が不穏な動きをしていた。
20日の早朝、迫田が覚醒剤取締法違反で、県警に逮捕された。
そして同じ日の午後、来橋教授が参考人として検察に拘束された。
どちらも公表はされていない。
ジョーからの極秘情報だった。
ヤクの売人による証言から、迫田のインプレッサを調べたところ、ダッシュボードから覚醒剤が出てきた。
そして、最近そのインプレッサを乗り回していた来橋教授にも任意同行が求められた。
絵に書いたような茶番劇。
陰で来橋教授の協力をしていたはずの検察が寝返った。
地検に圧力をかけるほどの力が動き始めた。
蓮見泰嗣。
「このタイミングで二人を拘束したって事は、遂に蓮見と巻田が動くのかも知れんな」
「市民の目が日本シリーズに向いている内に千葉のマンションから被害者を連れ去る …ありそうな話だな」
ジョーも島も同じような事を言って来た。
それを聞いて俺がマンションを直接張り込む事にした。
しかしそれには島もジョーも反対だった。
「シモがマンションの周りを張ると目立つし、迫田さんのように難癖をつけられて拘束される恐れだってある。何せ謹慎中だろ」
「そんなのに怯えていたら何も出来なくなる」
そんなラインのやり取りを見た “ いんふぉーまんと ” がシマーズのメンバーに防犯カメラの映像を送ってくれた。
確かにこの4分割の映像を監視した方が確実だ。
“ いんふぉーまんと ” の機転には助けられてばかりだった。
中学生かも知れないと言うが、本人は何も語らない。
そこは何も探らずに甘えるしかない。
まず、被害者を救出する事だけを考える。
俺は白いカローラをレンタカーで借りて、マンション付近にあるコンビニやドラックストアの駐車場を転々としながら映像を監視する事にした。
蓮見たちが現れたらマンションまで走る。
被害者を連れ出すところをおさえる。
国仲美摘さんを取り戻す。
今晩もし来なければ ……
明日が勝負になる。
久住GMから息子の犯罪を知らされた ……
千葉正利が帰ってくる。
『さあ、試合開始です !』
ヒステリックな声が耳に飛び込んで来た。
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