完璧なつなぎ


トシはツーコールで俺の電話に出てくれた。



「頼みがある。いきなりめちゃくちゃ言って済まないが、球団の偉い人と話がしたい。トシが信頼している人で、千葉監督より上の立場の人間と今すぐ話がしたいんだが ……いきなり無理かな ?」



『急ぎ ?』



「出来れば ……人の …命がかかっている」



『その偉い人からタカさんに電話すればいいの ?』



「・・・そうだが ……当てはあるのか ? って言うか、理由も聞かずにこんな事やってくれるのか ?」



『仕事なんでしょ ? さっきロビーで見かけたから、聞いてみる』



・・・マジか



「いつも悪いな」



『急ぎなんでしょ ? 切るよ』



「トシっ !」



『何 ?』



「聞かずに動いてくれるのって、ホント助かる」



『そんなの当たり前の事 ……タカさん、ちょっとそのまま待ってて』



「ん ?」



通話が途絶えた。



ロビー ? ……ホテルか。



福岡の宿泊先に到着したところか。

そんな慌ただしい時に、人の為に気軽に動く ……


トシくんは優しい ……か


やっぱり敵わんな ……




『もしもし』


・・・えっ ?


渋い声 ……誰 ?



『もしもし ?』



「あっ ……もしもし、私、下村と言います」



『ホワイトベアーズのGMをしております久住です』



「えっ ?」



『久しぶりです』



「えっ ? 私の事、知っているのですか ?」



・・・久住恭平


球団GMであり秋庭オーナーのブレーンと言われる本社の副社長。


・・・超大物


『もちろんです。あなたのような人は忘れられません』


・・・まさか


「あの ……こんな気安く電話に出ていただけるなんて ……」



『ははっ、私はそんな大層な人物じゃない』



・・・いやいや



「不躾な話で大変恐縮なんですが ……」



『そんなに構えないで下さい。あなたは大学時代に街の発展に大きく貢献した人であり、その上現在に至るまで我が街の治安を守り続けてくれている人です。さらに私が全服の信頼を寄せる下村稔成選手の身内でもある。この電話は緊急事態だと感じています。硬い挨拶は抜きにして何でもおっしゃって下さい』



・・・



「ありがとうございます」



俺は無意識に頭を下げていた。



「お願いがあります。そしてこのお願いには人の命が関わっています。ですので、ここだけの話にしていただきたい。それでも聞いていただけますか」



『あなたのお願いにお応え出来るかどうかは、内容を聞いてみないと分からないが、ここだけの話にする事だけは今誓えます』


・・・トシ


完璧なつなぎだ。



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