日本の階級社会
送られて来た動画にはガンメタのマセラティがはっきりと映っていた。
不鮮明だが左ハンドルを握る男の横顔も見える。
一瞬、こっちに顔を向けた。
サングラスもマスクもしていない。
クッ !
警戒心のカケラもない余裕顔。
スモークが貼られた後部座席にも人らしき影。
・・・美摘さん
白井柊二が捉えた奇跡的な3秒間。
遂に ……
ん ?
動画の下に続けてコメントが現れた。
👤いんふぉーまんと
{ 10月2日6時44分に記録されています
9:49
👤いんふぉーまんと
{ これはログで証明可能です
9:49
👤いんふぉーまんと
{ 運転者の顔 、時間をかけて解析すればもっと鮮明になります。車のナンバーも判明します
9:50
👤いんふぉーまんと
{ 17時頃にはお知らせ出来ると思います
9:51
もし “ いんふぉーまんと ” が中学生であるなら、今授業中のはずだ。
だから今は時間をかけての解析が出来ない。
しかし授業中に先生の目を盗んで、これだけの事をやってのける。
・・・どんだけ凄いんだ
俺はすぐにコメントをタップした。
助かりました。ありがとうございます }
9:53
続けて梨木、少ししてジョーの同じコメントが並んだ。
島からのコメントはない。
きっと手が離せない。
ジョーもそうだが、忙しい仕事の合間にそうそうスマホと睨めっこもしてられないはずだ。
仕事中みんなありがとう。あとは俺に }
任せてくれ
10:11
すぐに既読4になったが、誰からもレスはなかった。
俺と梨木は丁重に謝意を述べ、白井柊二の家を出た。
白井は実に清々しい顔で、俺たちを送り出してくれた。
「これで遂に逮捕状が請求できますね」
梨木が緊張の面持ちを向けて来た。
「いや」
「えっ ?」
「時間がかかり過ぎる」
「時間がかかっても ……」
「この物証は、被害者を救出するまで表には出せない」
「どっ、どうしてですか ?」
梨木の声のボリュームが上がる。
前を歩く婦人が驚いて振り返った。
「すみません ……どうしてですか」
一転して聞こえないようなボリュームになる。
「車の中で話そう」
緑地公園の駐車場。
俺のフォレスターの隣りには、ちゃっかり黄色いスイフトが並んでいた。
フォレスターを解錠すると、梨木はすぐに助手席のドアを開いた。
「俺たちの仕事は、まず一刻も早く被害者を救出する事だよな」
「はい」
「今日掴んだ物証を上に報告しても、まずまともに取り合ってもらえない。謹慎中の俺ならまず捏造を疑われる。新人の女警もあしらわれるだけかも知れない。だが裏取りはするだろう。2班のウメさんあたりを使う。ウメさんなら真相を掴む。ウメさんの報告で会社が一気にパニックになるだろう。誰が逮捕状を請求するか。誰が王様に引導を渡す役目を果たすか。もう腹の探り合いだ。そしてこの動きが霞が関に伝わる、検察が動く、裁判所が動く。野党が動く。そうなると ……恐らく全員が手のひらを返す。そうして逮捕状が発行される。たぶん早くても10日以上後の事になるだろう」
「そんな ……滅茶苦茶じゃないですか」
「それが日本の階級社会だ」
「・・・」
「風向きが変わった事を千葉洋平が知る。俺が一番恐れるのはそれだ。被害者が消される可能性がある」
「うっ ……」
梨木が歯を食いしばっていた。
目に涙を溜めている。
「だからとにかく被害者を救う事を考える。あのマンションに …洋平の部屋に突入するしかない。物証は、千葉洋平の逃げ道を塞いだに過ぎないんだ」
「・・か…きゅ ……かい」
梨木がなんかブツブツ言ってる。
「えっ ?」
「階級社会って ……クソですね」
・・・おいおい
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます