復元


「あれは確か ……その日すぐに消しました」


えっ


……消した ?


「えっ ?」


横で梨木が声を漏らした。


「あの ……もしかしてゴミ箱からも ?」


そのまま梨木のか細い声が続く。


「削除しました。動画を溜め込むとスマホが重くなるので ……」


隣りから息を飲みこむ気配がはっきりと伝わってきた。


ゴミ箱からも削除 ?



・・・



ここでも ……



届かなかったのか。



「その動画が何か ?」


白井の心細そうな眼差しが俺に向く。



「これに …この写真に私たちが追っている事件の犯人が映りこんでいる可能性があります」


俺は、あたかもこれから写真の中に進入しようとしている車影を指した。


「この一秒後の映像には、この車の姿がはっきりと映っている可能性があったのですが ……この写真の正確な撮影日や時間を憶えていますか ?」



「もしかしてその事件って例の ?……ちょ、ちょっと待って下さい」


白井は口元を緊張させてスマホを手に取った。


何か記録でもしてあるのか ?


隣りに座る梨木も、頻りにスマホに何かを打ち込んでいた。



ん ?


俺のスマホが鳴った。

ラインの着信音。



「10月2日です。時間はたぶん6時40分くらいだと思いますが、正確には分かりません」


白井が責任感を感じさせる重い声を出した。



10月 ……2日



・・・当たりだ



「よく分かりましたね」


「動画は消しましたけど、これを撮影した同じ日にスクリーンショットで写真にした事は憶えていました。写真の方はフォトアプリに残っていました。その写真のプロパティを開いたら保存した日付が出ます。時間の方は私の曖昧な記憶ですが ……」



・・・


76歳にして ……使い熟し方がすごいな。


「動画の削除はいつ頃ですか ?」


「・・・10月2日、確か同じ日です。写真を一枚保存して、すぐに動画の方は消してしまいましたから」



二週間以上も前 ……


復元は不可能なのか ?



ん ?


またラインの着信音。



もし ……


この写真だけでも ……


車影で車種を割り出せれば、白井のフォトアプリの記録とセットで、物証と認定させられないものか ?


どっちにしろ、サイバー班や鑑識に白井のスマホを解析してもらう必要がある。


またラインの着信音が鳴った。


・・・なんなんだ ?



「主任っ !」


梨木がスマホを見つめながら呟いた。


「どうした ?」


「ラインを開いて下さい。動画復元の件で、今 “ いんふぉーまんと ” さんから返信がきました」




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