警察嫌い


「この写真の撮影日 …梨木分かるか ?」


「えっ ? ……えっと …確か二週間くらい前とかだと思いますよ。何度注意しても分別ルールを守らないから、月初に撮影しておいた写真を掲示したって ……さっき山下さんにそう言ってましたから」



「二週間 ……」


すでに立ち上がっていた。


ほとんど無意識の内に走り出した。



「主任っ ?」


梨木の声を無視して公園を駆けた。



「猛獣みたいだのう」


すれ違った老人がそう言って顔を顰めていた。



物証を …


見つけたか ?


写真の “ 三叉の銛 ” のボンネットは、黒っぽく光っていた。


千葉洋平が所有するマセラティのギブリはガンメタリックだ。


南洋市のマセラティ登録台数は十数台。

その内、ガンメタが何台なのかまでは調べてないが ……決して多くはないだろう。


二週間前、この場所この時間に黒っぽいマセラティが写真に写り込んだ。



偶然か ?


これを偶然と思うヤツは、刑事なんて辞めた方がいい。



白井のスマホ ……


調べる価値はある。



公園を出たところで梨木が並ぶ。


「突然 …どうしたん …ですか ?」


乱れた呼吸が訊いてきた。



「さっき ……」


「えっ ?」


「白井さんが山下って男にスマホを向けていた」


「・・・ええ ……」


「あれ、動画を撮ろうとしてたんじゃないか ?」


「たぶん …そうかも知れませんが ……」




拡大印刷された写真 ……


もし、これが動画撮影されたものなら ……



すぐに白井の家が見えてきた。


灰色の瓦を乗せた何の特徴もない木造2階建て。


通りから見る限り、生活感があまり感じられない清潔そうな佇まいで、庭もスッキリと手入れが施されていた。


その庭に白井柊二の姿が見えた。


箒を持っている。



「白井さん」


白井が顔をあげた。


穏やかな眼差しが俺に向けられた。


俺の目をまっすぐ見てきた。


少なくとも鬱を感じさせる目ではない。


町内会長から開放され、ストレスがなくなったか。



「入っていいですか ?」


いきなりの不躾な問いかけにも、白井は動じる様子がない。



「どうぞ、下村さん ……梨木さんも」


白井は無表情に見えたが、やはり目は穏やかだった。


「よく私の名前まで憶えておられましたね」


「まあ、お入り下さい。何の用向きか知らないが、私がお茶を飲みたい。枯葉の掃除も結構大変でしてね。喉が乾いた」


白井はそう言って小さな門に箒を立て掛けると、玄関に向かって歩き出した。



「不思議」


横で梨木が驚いている。


「どうした ?」


「白井さん、警察嫌いって言われてるんですよ。実際、地域課や生安課が訪問しても、完璧無視の門前払いだったらしいですし ……」


「そうか ? さっき、梨木は普通に喋ってたじゃないか」


「私は ……きっと警察官とも思われていないんですよ」


「・・・だとしたら、もう立派な刑事だな」


「はい ?」


「せっかくだ。お茶をいただこう」


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