ベーグル



招待 ?


島さん ……


informantからの情報に期待してるってことかな ?

もうハッキングなんてしたくない …

でも国仲美摘さんは早く助けてあげて欲しいし、パンタグラファーはすぐにでも捕まってほしい。

事件が解決すれば、タカさんも休めるし …


・・・


すぐに友達に追加することにした。


メンバー確認。

シマーズのメンバーは4人いた。


kazuki_shima …… 島さん。

SIMOMURA …… タカさん。

暮林丈一郎 …… ジョーさん。

pear ☆ tree …… ?


pear tree ……梨の木 …誰だろう ?

警察の人かな ?



〜 お招きありがとうございます。

“ いんふぉーまんと ” と申します。

よろしくお願いします 〜


これで少しはタカさんの行動が分かるかな。


スマホを閉じて、7時まで教科書を開いた。

その日の予習。

毎朝これをしておくと、後は授業に集中すれば、学校のテストは何とかなる。

そうすれば、夕方から寝るまでは自由に過ごせる。


予習中、ラインの着信音が何度か鳴った。

着替えながら確認すると “ シマーズ ” のメンバーからの歓迎メッセージだった。

タカさんからは「よろしく」の4文字だけ。


・・・タカさんらしい


pear ☆treeさんは、明るくて感じのいい女の人だった。


学校の準備を済ませてから一階に下りた。


パンの香ばしい香り。


割烹着姿の華奈子さんが、キッチンから笑顔を出した。


「優深ちゃん、おはよう」


「華奈子さん、おはよう」


タイセーさんはリビングのローテーブルにスポーツ新聞を広げて興奮顔だった。

瞳が子供みたいになってる。


「タイセーさん、おはようございます」

「優深さん、おはようございます」


ベーグルに鼻を近づけながら、カウンターチェアに座った。

朝はいつも、華奈子さんが焼いてくれるパン。

今朝はゴロゴロくるみのクリームチーズベーグル。

優深が一番好きなベーグルだった。


・・・いい夢見たし、くるみのベーグルだし


今日はツイてるかな ……


ベーグルを頬張る。


わっ ……美味しい


もっちりとした噛み応えの中に、ローストしたくるみの香ばしさと食感が最高のアクセント ……いつもよりくるみがたくさん ?


「はいっどうぞ」


華奈子さんがオレンジジュースを入れてくれた。


「ありがとう」


「信州の東御くるみ、今朝はいつもより多く入れてみたのよ。優深ちゃん気づいた ?」


「はい。すぐに」


「どお」


「最高です」


「わはっ、よかった。じゃあたくさん食べてね」


「はい」


華奈子さんの目はいつも線みたいに細くて優しい、大きく見開いているところなんて見た事がなかった。

声も静かで、大声なんて一度も聴いた事ない。

穏やかで上品で若々しくて綺麗。

65歳だなんて、言っても誰も信じないと思う。


タイセーさんと華奈子さんはママが中学生の時再婚したみたい。

だからタイセーさんは、ママと本当の親子じゃないし、優深とも血のつながりはない。

でも、そんな事はどうでもいい事。

タイセーさんの事は世界で二番目に尊敬してるし、大好きだから ……

何故、一番が西崎透也さんなのかな ?

実は優深にもよく分からない。

先月、西崎さんが朔くんに会いに学校に来た。

西崎さんが教室に現れた時、身体が動かなくなった。

西崎さんから放たれたオーラが優深を包み込んで、心臓が止まるって思った。

ただの憧れ ? なのかな ?

よく分からないけど、世界で一番尊敬出来る人だと思った。



あっと言う間にベーグルがひとつ消えていた。


これタカさん、すごく好きかも。

だってパンすごく好きだし、チーズすごく好きだし、くるみがゴロゴロ入ったベーグルなんて、誰だって好きだし …


タカさんのところへ持って行けないかな ?

ベーグルなら優深でも作れそう。

いつか自分で作って持っていきたいなぁ。


タカさんの冷蔵庫の中身っていつも同じで悲しい。

ビールとトマトジュースと大きなチーズ袋と冷凍食品の山。

タカさんは好き嫌いがない。

何食べても美味しそうに食べる。

けど本当に好きなのは ……ご飯、パン、パスタ、麺。

要するに子供が好きそうなもの。

お肉を多めにしたり、辛くしたりして炭水化物を美味しく食べられればいい。


「おはよう」


ママが起きてきた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る