人として最低の行為


部屋に戻ってベッドにダイブした。


「しろくまが勝ったよ !」


枕の横にいるピカPが “ ぴぃかぁ” って言って微笑んでいた。


「嬉しいね」


思わずピカPに頬ずりした。


テニスボールの顔についたキュートな耳とギザギザの電撃尻尾が無敵に可愛らしいピカチュウのミニ縫いぐるみ。

10000個限定販売の超レアモノ。

発売当日から、ネットでは10倍以上の値段がついていた。

去年、タカさんがくれた誕生日プレゼント。


あの・・タカさんが、優深の為にこれをどうやってゲットしたんだろ。

タカさんからプレゼントされた時は、謎過ぎて引いちゃった。


あのタカさんが ……



「ふふっ ……日本シリーズ楽しみ」


・・・タカさん大丈夫かな ?


事件 ……解決するかな ?



ベッドに座り直してファーウェイのタブレットを開いた。


島さんからメールは来ていなかった。


ちょっとほっとした。

もし島さんが困っていたら放っておけない。

島さんは24時間、寝る間もないくらい事件解決の為に働いているような人だった。

あんなに真面目な人なんだ。

最初はそんな人にはとても見えなかった。


島さんの事はよく知っていた。

昔からタカさんが時々家に連れて来て、お酒を飲んでいた。

高校時代からの友達みたいだった。

ジョーさんっていう検事さんも一緒だった。

ジョーさんは背が高くて真面目そうで頭が良さそうで、いかにも検事さんって感じでカッコよかったけど、島さんはいつもふざけていて痛い冗談しか言わない変なおじさんだった。

こんな人がタカさんと同じ刑事だなんて …って思ってた。


でも、先月浜松市で起きた轢き逃げ事件。

登校中の小学一年生を横断歩道で跳ね飛ばした車が逃げた事件。


あの時、とても腹が立ってネットで事件情報を見ていたら、島さんがホワイトハットの人たちに、必死に協力を呼びかけているコミュニティを見つけた。


島さん、浜松警察署にずっといてぜんぜん寝てなかった。

事件解決のために命がけで犯人を追っていた。

逃走車が日本で一番売れている黒い軽自動車だったというのもあって、犯人の逃走経路情報が混乱していた。

ホワイトハットの人たちの情報も散らかっていた。

気がついた時には優深も寝ずに犯人を追跡してた。


粗いNシステムの画像を最新のプログラムに載せて解析したら、車のボディカラーは黒だけど屋根がグレーだった事がわかった。

ツートンカラーのホンダNボックス。

広域監視システムに侵入して、最新の追跡プログラムを組み込んでこの車を追った。

すぐにフィルタリングされた情報が、逃走区域を絞り込んでいった。

見つけた情報をメールで島さんに伝えた。

翌日に犯人が捕まった。


これで島さんゆっくり休めるって思ってたら、今度は南洋市で中学生が誘拐された。


次はタカさんも忙しくなる。

日本シリーズが見れなくなる。

防犯カメラに不自然な映像が上書きされていた。

幼稚なトリック。

ハッカーを追っている内にいつの間にかパンタグラファーの端末に侵入していた。


本当はパンタグラファーみたいな最低の犯罪者とは関わりたくなかった。

知れば知るほど嫌な気分になる。

だいたい他人の端末に侵入するなんて、人として最低な行為 ……優深も出来ればもうしたくない。


そう思っていたらタカさんが行方不明になっていた。



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