インフォーマント


くの字に曲げたクリップを押すようにして捻った。


“ カシャ ”


バカみたいに呆気なく両手が自由になった。


・・・くそったれ !


手錠をソファに投げつけた。

肩をぐるぐると回し、ここ何日か出来なかった動きをしてみる。

肩甲骨が歓喜の悲鳴を上げた。


パソコンをシャットダウンして、さらに固定電話の線を抜いた。

やはり俺自身が悪魔の侵入を許すわけにはいかない。


“ 殺人鬼より恐ろしい悪魔 ”


来橋教授に聞いた時は、ずいぶんと大袈裟な言い回しだと思った。

だが時間が経てば経つほど、恐怖が襲いかかって来る。


確かに ……


祥華と優深には1ミリたりとも、近寄らせるわけにはいかない。



ソファに体を埋めた。

今はここで島とジョー来るのを待つしかなかった。

すぐにでも動きたいが、まず二人に正確な情報を伝えるべきだ。

結局、梨木に二人をここへ連れてくるように頼んでしまった。


梨木を巻き込む事には、今でも逡巡のようなものが付き纏っている。

だが梨木には梨木の正義がある。


“ ヒロとの約束 ”


その思いは決して “ないがしろ ”にしてはいけない。



一刻も早く千葉正利と対峙しなければならない。

そればかりを思う。


せめて、千葉に接触する為の情報収集でもしておきたいが、スマホもPCも使えないとなると何も出来ない。


警察サツ回りの記者から聞き出せないか。

頼めば何でもやってくれそうな夜回り専門の新人記者の顔が浮かんだ。

そいつに口利きしてもらって、しろくま番を紹介してもらえないか。

番記者なら千葉の動きもわかる。

そうすれば、ドームで千葉に接触出来るかも知れない。


・・・


トシのスマホを出した。



“ ピピッ ”



・・・ん ?



メール着信 ?



待ち受け画面の一番上に、メッセージの冒頭文が流れている。



・・・なんだこれ ?



〜 下村貴史さんへメッセージ 〜



・・・俺宛て ?



〜 心配しないで、私はパンタグラファーではありません 〜



・・・



トシのスマホに着信したメッセージ。

俺宛てとか言われても、そうそう他人のスマホを勝手に開いていいものなのか。


悪いな ……トシ


新着メッセージをタップ。



<<< 下村貴史さんへメッセージ >>>


〜 心配しないで、私はパンタグラファーではありません。

私はパンタグラファーと闘う者であり、下村貴史さんの味方です。

私はすでにパンタグラファーの不正アクセスのパターンを、ある程度把握したと思っています。

少なくとも今後、下村貴史さんのネットワークにパンタグラファーが侵入する事はありませんので、その点は心配無用です。

下村貴史さんのネットワークは必ず私が守ります。

それを伝えたくてメッセージしました 〜


informantより



・・・インフォーマント ?



“ 情報提供者 ”って意味か ?



どういう事だ ?




“ ピンポーン ”



ん ?



島とジョーが来たようだ。



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