位置情報

・・・



よりによって梨木が ……



できる事なら ……



今、俺と接触しない方がいいんだが ……




運転席の梨木は、謎な目を俺に向けていた。


ここで追い返すわけにもいかないか ……


俺はとりあえず助手席に乗り込んだ。


梨木の目が俺の手元に釘付けになっている。


まあ、無理もないが ……



「どうして梨木がここへ ?」

「どうして手錠なんて ……」


「・・・」

「・・・」




「これは見なかった事にしてくれ」

「今、動けるのは私だけですから ……」


「・・・」

「・・・」



「マッサンたちはどうした ?」

「見なかった事って ……私見ましたけど ?」



「・・・」

「・・・」



睨み合った。

梨木の目は静謐でも何でなく、解読不明な …とっ散らかった感情だけが俺にぶつかって来た。



「済まないが、先に喋らせてくれないか ?」

「島係長が ……」



「・・・島 ? …………が ?」



・・・くっ、反応しちまった



「主任、スマホ貸して下さい」



「えっ ?」



「急いで下さい」



俺は急いでポケットから ……


「失礼します」


もごもごと動かす両腕の先を、梨木の左手が瞬速で通り過ぎ …去って行った。

ポケットからスマホが消えていた。


・・・はやっ


・・・スリか



そのままスマホのサイドスロットルを指で押し込んで、SDカードを引き出した。


「何してる ?」


「コレです」


梨木が手のひらを差し出した。


・・・SIMカード



「このスマホ、位置情報がすべてのアプリに対して許可されているそうです。島係長からは念の為SIMカードを抜くよう指示されました」



・・・どうして島が ?


・・・俺のスマホに侵入してたのか ?



「・・・じゃあ、俺の動きはバレバレだったんだな」



きっと迫田の仕業だ。


ウィンドウを下げて振り返ってみた。


150メートル後方に白いセダン ……四つの輪っかが陽光に煌めいていた。



「いったい…どうして ……何が …」


梨木が何かブツブツ言っている。


「とりあえずここから動こうか」



「髪はボサボサ、頬はげっそり、ヒゲはボーボー、腕には手錠 ……主任にいったい何が起きてるんですか ? 」


言葉と同時にアクセルを踏み込み込んだ。


・・・何て答えれば ……


「おっ、そうだ。手錠 ……クリップ持って来てくれたか ?」


そう言って、振り返ると白いアウディも動き出していた。


よく見えないが、来橋教授のシルエットではないような気がした。


・・・迫田か


もう動いて大丈夫なのか ?

特捜部が殺し屋を押さえたのか ?


・・・状況が読めん



「持って来ましたよ。クリップなんて何に使うんですか ?」


梨木が不思議顔で、摩訶不思議な物体を差し出した。


巨大な目玉クリップ。



・・・マジか






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