何だと思っている
・・・眩しいな
グランドから逸らした目を手元に落とした。
空になった缶コーヒーを握り締めていた。
真ん中が潰れて、くの字になっていた。
鎖に繋がれた両掌が汗ばんでいる。
こんな場所に拘束されて、こんな無様な事になっていても、手に汗握る。
自分が発する汗が疎ましかった。
八回のマウンドに立ったカッキーが躍動していた。
鬼気迫る凄まじいピッチング。
いきなりの連続奪三振。
・・・勝利まであと4人
今のカッキーからは、1点を奪うのさえ至難の技かも知れない。
柿田智秋。
南大の3つ後輩 ……
義理に堅く、情に厚き熱血派。
誰よりもヒロを尊敬し、崇拝してやまない男。
ヒロが今、一瞬でも笑顔を見せてくれるのなら、腕がへし折れてもバッターをねじ伏せてしまうだろう。
・・・また三振だっ !
三者連続三振。
・・・みんな凄いんだな
・・・
ひしゃげた缶を完全に折り曲げた。
折って伸ばしてを3回繰り返したら、すぐに裂け目が出来た。
裂け目に指をかけて、紙を引き裂くように力を入れたら、簡単に真っ二つになった。
半分をさらに細く引き裂いていく。
千切れないように慎重に、1センチ幅ほどの帯を作っていく。
同じ事を繰り返した。
ローテーブルにアルミの帯を並べていく。
もうテレビ画面に目を戻さなかった。
カッキーの熱投。
1球見ただけで勝利を確信した。
足元にはアルミの空缶が9本並んでいた。
食欲はなかったが、気がつくといくつもの缶コーヒーが空になっていた。
缶を引き裂いて次々とアルミの帯を作っていった。
何も考えず、指先に集中した。
・・・ヒーローインタビュー ?
しろくまドームが歓喜に湧いていた。
いつの間にか試合が終わっていた。
草薙に続いてトシがお立ち台に呼ばれたようだが、顔をあげずに作業に専念した。
9缶をすべて潰して大量のアルミ帯を作った。
そこで顔を上げた。
バラエティ番組に変わっていた。
テレビにリモコンを向けた。
やっと静かになった。
アルミの帯をねじる。
出来るだけ太くなるように、時間をかけてねじった。
ドリルの刃みたいになった。
帯が千切れないように、一本一本慎重に丁寧にねじる。
大量のドリルの刃が出来た。
二本を手に取って、先端のところでクロスさせて、またねじってつなげる。
二本がつながって20センチほどの棒になった。
次々とつなげていく。
全部つなげると3メートル近い長さにもなった。
それを半分に切って、二本を螺旋状にまたねじる。
1メートル強のアルミ棒が出来上がった。
缶の残骸は全部ソファの下に突っ込む。
棒の先端を折り曲げて引っ掛け部分を作る。
・・・出来た
アルミ棒を持って、ワイヤーを目一杯伸ばして玄関に近づく。
三和土に置かれた圧着ペンチまで1メートル弱。
アルミ棒の引っ掛け部分を使って、ペンチを手繰る。
・・・くっ
意外と簡単に取れたが ……
本当にただ圧着スリーブ(管)を潰すだけのミニペンチだった。
ワイヤーカッターが付いている電気工事用のペンチを期待したが ……
来橋教授もそんな事ぐらい承知か。
そもそもワイヤーを切断する工具をこんな所に放置しておくほど甘くはないか。
なら ……
潰した管を破壊出来ないか ?
上下左右に圧着を続ければ、管がどんどん傷むはずだ。
管が破壊出来れば、ワイヤーは外れる。
俺には他にやる事がないのだから ……
こんな事なら何時間でも続けられる。
悪魔が動き出すのを待っていた ?
蓮見たちに罠を張って隠蔽現場を押さえる ?
攪乱戦法で敵を混乱させる ?
特捜部が裏で動く ?
障害者を利用する ?
・・・・ふざけるな
被害者を何だと思っている。
弱者を何だと思っている。
・・・
絶対に脱出してやる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます