全部 …


おぉぉぉぉぉぉ ー


右中間フェンスに打球が跳ねると、ドームに爆音のような響めきが鳴り響いた。 


センターが打球に追いついた。


ホームインした中江がトシのバットを素早く拾った。


すぐに、ジェームス・リードも還って来た。

生還したリードがそのまま向き直って、両手で思いっきりケースケを呼び込む。


すでにケースケも三塁を回っていた。


中継に入ったセカンドのバックホーム。


ストライクの返球が来た。


しかし捕球するキャッチャーの後ろをケースケの巨体が駆け抜けた。


「セーフ !」



うおぉぉぉぉー !



走者一掃のツーベース。


これで 4 − 1 になった。


しろくまドームのスタンドが揺れているように見えた。


まさに狂喜乱舞。


観客のほぼ全員が立ち上がり、フィールドの中央に立ち尽くす18歳のルーキーを讃えていた。


二塁ベース上で放心状態だったトシが、思い出したように一塁側のダグアウトに向かって、ペコっとお辞儀をした。


そのプロ野球選手らしからぬ謙虚な行動に、スタンドがドッと沸いた。


トシがすぐに右中間スタンドに振り向いて、今度は拳をまっすぐに突き上げた。


それに応え、折り畳んだ横断幕を振り回す若者は泣いているように見えた。


・・・あれは中之瀬滉太だ


その横に並ぶ二人はトシに向かって拳を突き出した。


・・・立花秀志と山内宇宙


トシが照れくさそうに白い歯を見せて、やはり3人にもお辞儀をした。


・・・いい光景だ




・・・ヒロ




見てるか。




ちゃんと見てくれてたか。




全部 ……ヒロのおかげなんだぞ。


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