流れ

 

七回裏。


先頭打者の3番鴻野が、初球のカーブを簡単に打ち上げてしまった。


平凡なセンターフライ。


ワンナウト。


流れが悪過ぎる、ドームの空気がどんどん重くなっていく。


そんな中、マウンドのラファエルはずいぶんとリラックスした表情だ。

打たれる気がしない。

そんな感じだった。

ラテン系が調子に乗ると手に負えない。

きっと完投する気満々なのだろう。


4番中江も簡単に追い込まれた。


1ー2ワン・ツーからの4球目。

中江がバットを放り出すように、外角のカーブに合わせた。

苦し紛れの腰砕けのようなバッティング。


おっ !


しかしこれがセカンドの頭を越えるポテンヒットになった。


・・・


右バッターのヒットは初回の鴻野以来2本目だ。

あれもポテンヒットだった。


トシのピッチャー返し。

あれがゲッツーで、鴻野のポテンヒットはタイムリーになった。


“ 野球の結果なんて半分は運 ”


南大の時、深町監督がよく言っていた言葉だが、こんなん見るとつくづくそう思う。



ワンナウト一塁。


ここで千葉監督がダグアウトから出て来た。


トーレスに代打のようだ。



『5番、トーレスに変わりましてジェームス・リード。背番号43』


ジェームス・リード ……左のアベレージヒッター。

去年までは5番を打っていたが、今季は故障がちで精彩を欠いていた。

守備でもエラーが多いので最近ではスタメンを外れ、代打の切り札的存在になっていた。

だが、今日に限って言えば、超貴重な左バッターだ。


左打席に入ったリード。

えらく気合が入っている。

確かにこのままでは来季はないだろう。

少しでもアピールしておかないと ……



初球。


インハイに153キロのストレート ……


いきなりぶっ叩いた。


白線をなめるように、一塁線に痛烈な打球が這った。

一塁手が倒れ込むように横に跳んだ。



抜けたっ !



「フェア !」



塁審が踊るようにフェアグランドを指した。



おぉぉぉぉぉ !



中江が二塁ベースを回った。



ライトが今、打球に追いついた。



リードが二塁に突っ込む。



ボールは今、中継の二塁手に返ったところだ。



ツーベース。



ワンナウト二塁三塁。



・・・いきなり流れが来た



スタンド騒然。




『6番、ファースト森田。背番号9』



うおぉぉぉぉー。



ドームが一気に沸き立った。



・・・ケースケ ……



ん ?



左打席に立ったケースケがバットを構えても、キャッチャーは座らなかった。



敬遠 ?



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