シンカー

 

この日最速の155キロがアウトローいっぱいに決まった。



「ストラックアウトォ !」



あれがストライク ?

右打席のトーレスが、縋るような目でアンパイヤを見た。


四回。

3番鴻野、4番中江、5番トーレス。

二打席目のクリーンナップが三者三振。



手がつけられない。


ラファエルが完全に乗ってしまった。


まともなバッティングをしているのは1番の沖野と6番のケースケ ……やはり左の二人だけだった。

右バッターはお手上げ状態だ。


一方の草薙もストレート主体ながら、さすがのピッチングを続けていた。

草薙も相手にまともなバッティングをさせていない。


四回を終わって1 ー 0。

息詰まる投手戦が続いていた。




五回裏。



アウトローに逃げるシンカーを、きれいにピッチャー返し。


この回、先頭打者のケースケがまた出塁した。


打席に向うトシ。

ドームの歓声がさっきより静かだった。

スクイズ失敗。

どう見ても采配ミスだが、大半のファンはそうは思ってくれない。

ほとんどのファンにとっては、結果がすべてなのだ。




・・・あんな結果なんて気にするな



初球。


膝下に落ちるシンカーを見逃した。


「ストライク !」


ケースケが捉えた球とまったく同じだった。

だが、右打者には消える魔球になるのかも知れない。

特に今日はキレッキレだから余計手に負えない。



2球目。

カーブが同じコースに来た。


腰を引かないように我慢しているのが、手に取るように分かった。

しかし、手は出ない。

完璧なコースだった。


「ストライク !」



・・・追い込まれた



いつもポーカーフェイスだから、表情は読み取れないが、やはり青褪めて見えた。



・・・頑張れ




3球目。


153キロのストレート。


外角高め。


見逃したっ !



「ボール」



・・・ふうっ



さすがの選球眼。


際どいコースだが、トシは高めの釣り球にはまず手を出さない。



・・・落ち着いてる



1 ー 2ワンツー



4球目。


膝下の変化球。



シンカーか ……カーブか ……



シンカーだ。



沈むボールを上から叩いた。


捉えたぁ !



ピッチャー返しだ。



ああぁぁぁぁ。



ラファエルが止めた !



1ー6ー3ピッチャー ショート ファースト



トシが転がり込むように、一塁に駆け込んだ。



「アウトッ !」



・・・またゲッツー

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