悪魔の暴走
どれだけ周囲の人間を不幸のどん底に陥れようが、自分だけは逃れようとする老害たちがいる。
「絶対に逃さない」
洋平の中の悪魔が動き始める。
老害たちを絶望の淵に追い込むための、最も有効なアイテム。
それが、その孫娘の恥ずかしい姿をネットに晒す事だった。
今や通学路や学校周辺だけでなく、学校内に監視カメラが設置されている事も珍しくない時代である。
不審者侵入対策、窃盗や器物破損の犯罪防止、グランドや体育館、プールでの未然事故防止対策、そしていじめ防止対策等がその設置の理由だが、不祥事に対し責任追及の厳しい昨今、実は学校側の自己防衛策の側面も大きな要因となっている。
洋平は学校のカメラに侵入し、ターゲットの行動パターンをじっくりと観察し、最も目撃されるリスクの低い場所、時間を狙って少女を拉致した。
苛まれる
洋平の中に沸々と湧き上がる、底知れぬ恍惚感。
老害成敗を重ねる内に、洋平の中の悪魔が暴走し始めた。
歪んだ正義感から端を発した絶望鑑賞のターゲットは、いつしか老害から少女へと移行していったのだった。
洋平は少女を拉致、もしくは開放する際は大胆かつ無警戒だった。
もし目撃者がいたとしても、自分は捕まらない。
どうせ彼奴等の力が勝手に護ってくれる。
そう確信していた。
彼奴等の力 ……
大物政治家とその秘書。
警察官僚のトップ。
そして母親。
生殺与奪の権を握られてしまった蓮見泰嗣は “ 洋平の犬 ” と成り下がった。
私設秘書である長男の喬太郎に、洋平が犯す全ての事件の隠蔽を指示する。
警察官僚である次男の健一郎は、自己保身の為に隠蔽に動かざるを得ない。
母親の知遥は息子を犯罪者にしない為に必死だ。
結局、自分自身を護る為に必死に醜い隠蔽を繰り返す身内たち。
洋平には、必死に洋平を護ろうとする大人たちさえも憎悪の対象でしかなかった。
いつしか洋平は完全に悪魔に支配されていた。
そんな洋平が唯一恐れる存在。
そして唯一恐れるもの。
それが千葉正利であり、暴力だった。
大学生の時、杉村菜都を拐おうとした。
それを大沢秋時が止めた。
この時、その仕返しとして大沢を野球部に居られなくしてやった。
これを知った正利は烈火のごとく怒り、洋平を何度も殴った。
正利は、卑劣な行為で大沢から野球を奪った洋平が許せないと言った。
千葉正利は単純な野球バカだった。
血のにじむ努力を積み重ね、弱小チームで300勝。
並大抵な苦労じゃない。
高校で野球から逃げ出した洋平にとって、正利に対しては畏怖の念しかない。
蓮見一族のようなドロドロした特権意識などとは無縁の男だった。
表も裏もない。
洋平には正利を蔑む材料がないのだ。
さらにあの直後、洋平はマンションの駐車場で暴漢に襲われた。
とてつもない恐怖だった。
恐ろしくて外出さえも出来なくなる程のショックを受けた。
警察に通報する事も、暴漢を暴く事も出来なかった。
大沢を陥れた罰だと思った。
洋平はこの時のトラウマが、もう決して正利や野球には近づかないと決心させたのだ。
父親と暴力に恐怖する洋平は、家ではしっかりと母親に庇護してもらっていた。
ネットワークの悪魔 “ パンタグラファー ” は現実社会では少女を苦しめる事しか出来ない小心者の単なる “ のぞき魔 ” になっていた。
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