捻じ曲がった正義感

 

不正、隠蔽、既得権益 ……


人はこれらを異常に嫌悪する時期がある。

“ 大人は汚い ” と吠える純なる正義感。

特に二十歳前後の男にはそれが顕著な場合があり、それが大人不信や社会不信、そして政治不信につながっていく。


しかしほとんどの場合、社会の荒波に揉まれ、結婚し、子供が出来て …と忙しい日常に追われる内に、そんな批判精神などどこかに埋もれてしまう。



天才、千葉洋平の精神成長は人より10年ほど早かった。

中学にあがった頃には、すでに大人の都合主義を何よりも嫌悪していた。


〜 だからこそ祖父のような立派な男になり、時流にそぐわない特権、既得権益に群がる強欲社会の非合理的な資本分配をなくし、実力や正確な成果で社会が成り立つ世の中に変えたい 〜


13歳の時に書いた “ 将来の夢 ” の作文には、はっきりとそう書いてあった。



だが15歳にしてその世界のすべてが反転した。


祖父こそが、都合主義の権化だった。

人道に悖る所業、いや鬼畜にも劣る化け物だった。



社会の荒波に揉まれる事も、生活に追われる事もない洋平の批判精神は決して埋もれる事はない。

逆にその激しさは増幅された。


千葉洋平の奥底に、捻じ曲がった正義感(悪魔)が宿った。



高校生になった頃には、すでに不正アクセス三昧の生活を送っていた。


ターゲットは政治家の天下りや利権ができている特定の企業や団体。

そこで隠蔽された不正、不祥事などを突き止め、事実をSNSで晒す。

ネットワーク内ではあっという間に神格化される存在となった。


まさに “ アルセーヌ・ルパン ” を気取っていた。


それでも部下に責任を押しつけ、追及から逃れようとする不逞の輩がいた。

いや、実際はそういった奴輩ばかりだった。

絶対に許せなかった。


「絶望の淵までも追いつめてやる」


ターゲットにたまたま女子中学生の孫がいた。



これが悪魔の最初の仕事だった。





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