執念

 

ヨーロッパの高級車が高速道路を疾走している。


トンネルを抜けた。


突如現れた雄大な富士山をバックに車が駆け抜ける。



テレビCMだった。



・・・雄大な富士



今となっては、あの壮大な景観を眺めてもその裏側に潜む闇に、ただ昏く沈むだけだった。




樹海の商売人 ……




・・・小関





小関正也は高校3年の時、両親を交通事故で失っていた。

高速道路で居眠りトラックに追突されての凄惨な事故によるものだった。


そして大学3年の時には、中学3年の従兄妹を亡くした。

受験ノイローゼによる自殺だったと言われている。


更にその5日後、今度はその母親が娘の後を追った。


つまり小関はお姉さんも失ったのだ。


小関はこの5年ほどの間に、家族をすべて奪われた事になる。


この不幸の連鎖に対する憤りが、千葉洋平を追う執念となったのかも知れない。



小関は従兄妹の死の真相を追う内に、似たような女子中学生の自死事件が市内で4件も発生している事を知った。

更に少女拉致未遂までも発生していた。


未遂の際に、拐われかけた少女の目撃情報から、明らかに怪しい男が浮かび上がった。


それが千葉洋平だった。



しかし、警察は全く動かなかった。


その時、一人の若い刑事が単独で千葉洋平を追ったが、あっという間に山間の駐在所に飛ばされてしまった。


その時の若い刑事というのが迫田だ。


確かにあの時、大学のプールのラウンジで小関からそんな話を聞いた気がする。


来橋教授が “ 迫田が本庁に拉致された ” と言っていた、と ……



飛ばされた迫田に代わり、小関が洋平を追った。


しかしすぐに蓮見一族の力を思い知らされる事となる。

電車内での痴漢行為で現行犯逮捕される事になるのだ。

まるで身に覚えのない言いがかりだった。

小関は完全に嵌められた。

これを仕組んだのは千葉知遥だった。


小関はこの罠に嵌まり、裁判官への道を閉ざされる事となる。


この時から小関は、洋平の犯罪と蓮見一族の陰謀を暴く事に一生を賭すと心に誓い、ハッカーの道へと突き進んで行ったのだった。


小関の元には、両親を失った時に得た莫大な保険金と賠償金があった。

金と時間のすべてを “ 復讐 ” の為のみに使ったのだ。



小関はネットワークの悪魔を追い続けた。


サイバー空間のパトロールとID屋の摘発に明け暮れる日々を送った。


〜 サイバー空間にはID屋なる者が暗躍している。ID屋とは、他人のIDを販売する密売人だ。それは、犯罪者が身を隠すためのツールとして使用される。犯罪が発覚すれば、警察では真っ先に犯行に使用されたIDを照会する。悪魔は、そんな当たり前の捜査手法は知り尽くしている。彼は捜査が自分の身辺に及ばないように、あらかじめID屋から他人のIDとパスワードを入手し、他人になりすましてから犯行に及ぶ 〜



小関は闇に潜んだまま執拗に悪魔を追った。


迫田は小関の追跡を妨害する事で、千葉知遥の信頼を得る事に成功した。

蓮見一族の犬になる事で内部から洋平の犯罪、一族の隠蔽の証拠を探った。


来橋教授はそんな二人から得た情報を検察の特捜部に提供し続けた。


3人は全く接触する事なく、慎重に連携を続けて来たのだ。



ネットワークの悪魔。


今や千葉洋平の歪んだ生活と犯罪遍歴は、小関による執念の追跡と、千葉知遥の手足となり続けて来た迫田によって、ほぼ明らかになっていた。


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