水野の代役

 

10月11日


クライマックスシリーズ。

ファイナルステージ第ニ戦。


第一戦で頭に死球を受け、一時的に脳震盪を起こした水野は、リーグ規定により出場が止められた。


京川も右手首に死球を受け打撲、全治10日の診断で欠場。


控え捕手の片山と外野手の大野は、乱闘による暴力行為で退場処分を受け出場停止。



圧倒的な得点力を誇る二人の打者を欠き、勝負強い経験豊富な打者を欠き、、同時に二人の捕手を失った。


しろくまのダメージは計り知れない。



それでも ……


大沢は二軍のままだ。

目の手術が終わって、もう三週間ほどになるが、千葉はもう大沢を一軍に戻すつもりがないようだった。



・・・親の情動



 


第ニ戦のスターティングラインナップが発表された。

 


 1番 ショート   沖野

 2番 セカンド   辻合

 3番 センター   鴻野

 4番 レフト    中江

 5番 サード    トーレス

 6番 ファースト  森田

 7番 ライト    下村

 8番 キャッチャー 吾妻

 9番 ピッチャー  草薙


 


・・・トシ


 


しろくまドームの重苦しい空気。


そんな中、エース草薙の立ち上がりも重苦しいものだった。



初回、先頭打者。


サード前のボテボテゴロ。


ダッシュして素手で掴んだトーレスが一塁に悪送球。


長い手足を目一杯伸ばして捕球したケースケの左足が、ベースから僅かに離れた。



ノーアウトのランナー。


ドームに流れる騒めき。


水野がいない心細さ。


京川がいない不安。


そんなものがはっきりとドームの空気に顕れていた。



またボテボテのゴロ。


今度は三遊間だ。



トーレスが突っ込む。


届かない。



ショート沖野の逆シングル。



おっ !



糸を引くような美しい送球。


そしてコータの鮮やかなジャンピングスロー。


目一杯に突き出したケースケのミットにストライクボールが吸い込まれた。




塁審がじっくりと味わうように、胸の前で右手を握り締めながら、グイッと引いた。



「アウトッ !」



一瞬の静寂。


徐々に広がるさざ波のような騒めき。


そしてドームが一気に爆発した。


いきなりのスタンディングオベーション。


あっという間のゲッツー成立。


エース草薙が嬉しそうに沖野とコータとケースケを順番に指差した。


トーレスが吠えた。


コータが沖野に向かって両掌をそよがせている。



・・・うむ



大型ルーキー沖野大地。



洗練された三遊間の足捌き。



柔らかい身のこなし。



まるで水野 ……



いや、あの動きは大学時代の西崎か。



・・・やるじゃん



ドームの空気を水野の代役を勤めるルーキーが一瞬で変えた。




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