砂の味 

 

教授が帰り、一人になった。


俺はテレビ画面に目を向けて、何時間もただじっとしていた。



・・・遠いな



の仲間たち ”



テレビは東名事故のニュースの後、神宮大会の準決勝の結果を伝えた。


準決勝第二試合では、名峰大と南洋大の因縁の対決が行われていた。

断トツの優勝候補、王者名峰大に対し南洋大が大健闘、終始リードする展開だったが、王者が土壇場の九回に追いつき、延長十三回に粘る南洋を突き放した。


負けた南洋ナインは爽やかだった。

カメラが南洋ダグアウトの光景が追った。

みんなが笑顔で鷹岡監督を慰めていた。



・・・凌



鷹岡凌たかおかりょうは、大学に残りスポーツ科学の道に進んだ。

ヒロの後を追ったのだ。


偏差値が跳ね上がり、スポーツ推薦や特待生の制度もほぼ無い状態になった南洋大野球部はここ数年、神宮大会に出場するのも難しい状況だった。


そんな中、3年前に凌が母校の野球部監督に就任し、今年初めて神宮大会に進出したのだ。



凌の涙は ……


負けた悔しさなのか ……


大健闘したナインに感動したのか ……



たぶん ……


それだけじゃない。



神宮で再び輝く母校の姿を ……


先輩・・に見せたかった ……


見せる事が出来た感慨か。




・・・ !?


テレビに千葉正利のアップが映し出された。


しろくまのダグアウト。


水野が映った。


・・・


・・・トシが映った


神宮のニュースのあとは野球中継か。


クライマックスシリーズが始まっていた。



月島瞬とレッドシャークス松井による息詰まる投手戦。


しろくま打線は松井の変化球に翻弄されていた。


まともなバッティングをしているのは、京川と水野、それと ……トシ。

三人だけだった。


2番京川、3番水野が出塁して、4番、5番が連続三振。

そんなパターンが何回もあった。

8番のトシは、最初の打席で落ちる球をセンター前に弾き返したが、2打席目3打席目は敬遠された。


0 - 2 で九回裏。


しろくまが無得点のまま最後の攻撃になった。

 

ここでレッドシャークスのクローザーが、京川、水野に連続死球。

グランドで大乱闘が勃発した。


クローザーが危険球で、しろくまの2選手が暴力行為で退場処分となる。


負け試合で、京川と水野が怪我を負う死球を受け、退場処分を受けた二人の選手はもうCSには出られない。 



・・・まずいな 



このあと、ノーアウト 一、二塁でゲームが再開されたが、4番中江も、5番トーレスも凡打。



・・・二人共リキみ過ぎ



九回裏ツーアウト一、二塁で長身の選手が左打席に入った。



6番の森田。



・・・ケースケ



南洋大が神宮優勝を遂げた時、唯一1年でスタメン出場を果たしたファーストのスペシャリスト。

陰の立役者だった。


 

初球。



前の二人が打ち損じたチェンジアップ。



森田がバットを振り抜いた。



・・・



打球がライトスタンド最上段に突き刺さった。



逆転サヨナラスリーラン。



・・・



森田が一塁を回ったところで、静かに右手を突き上げた。

それが合図だったかのように、しろくまドーム全体が爆発した。



・・・



俺はハンバーガーに食いついた。



手錠で繋がれた両手で持って、食べるそれは砂の味がした。



画面に視線を戻すと、ベースを一周して帰って来たケースケが、仲間にもみくちゃにされていた。




・・・遠いな


 

 

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