昔と変わらぬ狂犬
「さっき “ 吊るし委託人 ” って言ってましたよね ? つまり “ 樹海の商売人” と通じている人間が、敵の中にいるって事ですか ? 小関のように自分たちに都合の悪い存在を消す “殺し屋 ”が敵の中に …」
言ってて頭がおかしくなりそうだ。
教授は俺の問いかけに、弱々しく頷き ……
そして ……
自分の知っている事を最初から ……
全てを語りだした。
その間、俺は一言の言葉もはさむ事さえ出来ず、ただじっと息を潜めるばかりだった。
千葉洋平という悪魔。
蓮見泰嗣という巨大な存在。
蓮見喬太郎という闇の支配者。
蓮見健一郎という階級社会の妖怪。
そして ……
千葉知遥という狂気。
それに挑んだ小関正也と ……
犬に成り下がった迫田拓人。
話し終えた教授は、おもむろに立ち上がり
「君は何も食べていないようだが、大丈夫かね。コンビニ弁当とかハンバーガーとか、こんなものばかりで申しわけなかったが ……東名の事故のせいで、ここでの君の生活も長くなりそうなんで、私が毎日ここに食事を届ける。これからはもう少しマシなものを買って来るから、今日はこれで勘弁してくれ」
教授が心配顔を向け「ではまた明日」と言った。
「もうひとつだけ ……話の中に袖原の名が一度も出て来なかったが ……」
俺は慌てて言った。
「袖原君 ? 彼は千葉洋平の事は何も知らんよ」
「何も ?」
「彼は見た通りの男だ。もの凄い柔道家であり優秀な刑事だ。
・・・そうか
俺に襲いかかって来たあの殺気 ……あれは階級社会に対する絶対的な忠誠心の表れだったのか。
「済まないね。正義を貫こうとする君をこんな所に閉じ込めて ……私も迫田も君の暴走が心配なんだ。君に今、あのマンションに行かれるわけにはいかない。君に動かれると困る ……千葉洋平を摘発するだけでは何も解決しない。巨大な権力がどんな手段を使ってでも悪魔を守ろうとするだろう。悪魔を抹殺する為には、まず悪魔を護ろうとする権力者たちを法の力で裁かなければならない。隠蔽の事実を白日の下に晒さなければならないのだよ。今回がまたとないその機会なんだ」
「暴走 ? 俺の事は ……そんなに信用出来ませんか ?」
「私は、全てを話せば君だってもう暴走なんかしないと思った。私たちの頼もしい仲間になってくれるだろうとね。しかし迫田が君を信用しない。まあ、あの袖原警部補を病院送りにしてしまうんだから、確かに恐ろしい執念だったんだろうね」
教授が気弱な笑いを見せた。
「袖原が ?」
「右膝、顎、鼻骨それに前歯が二本折れておった。あの相手にそこまでの怪我を負わす。迫田が君の事を信用しない理由も分かるような気がしたよ。君ならまたあのマンションに行きかねない」
「・・・」
「迫田はこう言っていたよ。“ 月見酒事件の下村 ……あいつは、どれだけ不遇の時を過ごしても、昔と変わらぬ狂犬だった ” とね」
・・・狂犬
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