千葉洋平と中村晃一
「殺された ?」
仰ぎ見た俺の目に、教授の能面のような眼差しが突き刺さった。
「そんな事件、記憶にないが ……」
「樹海でクビを吊っておった。だから自殺として滞りなく処理されたよ。
「本当は殺された ?」
「彼が樹海で発見された7日後、彼から手紙が届いた。身の危険を感じた正也は “ 奴らは手段を選ばない ” という事を私に知らせたかったのだ。そして十数年に渡る千葉洋平との闘いの内容を手紙に残した」
「十数年 ?」
「正也は千葉洋平という悪魔を摘発する事だけに生涯を賭した」
「・・・確か大学4年の時、小関は自殺した従兄妹の事を熱心に調べていた ……あれからずっと千葉洋平を追っていたのか ?」
とんでもない執念 ……
「そう、私はずっと反対しておったがね。とても摘発出来るような相手じゃない。私は悪魔の恐ろしい力も、後ろ盾の恐ろしさも充分に知っておったからね。私にだって娘もいれば、孫もいる。法務大臣にケツを捲くって、高裁を辞任した時のようなわけにはいかない。自分一人が ……という訳にいかないのだ。あれはどんな殺人鬼よりも恐ろしい悪魔なんだ」
「殺人鬼よりも恐ろしい悪魔 ? ……それほどまでの脅威ですか ? 俺にはただの変態野郎としか思えないが ……」
「恐らく蓮見一族は全員、千葉洋平に何らかの弱みを握られている。まあ、当然巻本刑事部長も同様だな」
「何故そんな事が ……」
「不祥事の隠蔽、贈収賄、公職選挙法違反、不倫、買春 ……いや例え罪を犯さなくても、夫婦の夜の営みを盗撮されただけでも、充分な弱みとなる。政治家や警察官僚なんて、どんな小さな弱みでも致命傷になるからな。俗に言う生殺与奪の権を握られるってヤツだな。
ヤツはカメラレンズを通して何でも見通しているんだ。そして ……とにかく自分の思いのままにならないと気が済まない ……いや気に食わないんだ。
本庁捜一の狂犬と呼ばれていた君ならよく知っているだろう ? 多花丘少女監禁事件の犯人、中村晃一を。彼もそんな男だった。千葉洋平と中村晃一はある意味そっくりかも知れん。ただ、大きく違うのはヤツが超一流の天才ハッカーってことだ」
「えっ ? ハッカー ?」
「昔、君も私の特別講義は受けていたよね ?」
・・・あっ !
「まさか ?」
「そう、ネットワークに潜む悪魔 ……まさに千葉洋平がパンタグラファーだった」
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