悪魔をこの世から抹殺するため
もう老境に入ったと言われる年であろう。
しかし十数年ぶりの来橋教授には、昔と変わらぬ不惑のエネルギーを感じさせるオーラを身に纏っていた。
さすがに前頭部はずいぶんと寂しくなっていたが、逆に齢を重ねた男の風格のような味わいを感じさせる。
来橋教授はキッチンカウンターに同じものを揃えるようにコンビニ袋を置くと、ストゥールに腰を掛けた。
禍々しい実況を続けるテレビ画面に目を向けると僅かに顔を顰めた。
にこやかに登場したはずだが、テレビを見て明らかに表情を険しくした。
「どうしてここに、大学の先生が登場するんです ?」
取り敢えず、状況の把握が先決だ。
「私たちからすれば、君が ……下村刑事がどうしてあのマンションに目をつけたのか ……そっちの方が不思議だがね」
「私たち ?」
俺は3本目の缶コーヒーを飲み干した。
手錠に繋がれた状態で、久しぶりに対面する大学恩師。
俺のこの状況を見ても、何の動揺も見せない。だいたい、教授がここの部屋の鍵を持っていた。
つまりはこの人も敵 ……まさか蓮見側の人間なのか ?
「蓮見本部長、巻本刑事部長、迫田、それに私 ……これが私たちだ」
来橋教授はそう言って、テレビ画面に向けていた目をこっちに向けた。
・・・?
「先生も ……まさか蓮見の犬だったって事ですか ?」
俺がそう言うと、教授は静かに首を振った。
「私は蓮見本部長とは、相識がないよ。判事時代に顔を見掛けた事があるくらいかな。だいたい私のような曲者は犬にもしてもらえんよ。だが迫田君は今、完全に蓮見本部長の息のかかった人間だ。私はその迫田君のアドバイザーって役回りかな」
「迫田のアドバイザーって ……それは千葉洋平の犯罪を揉み消す手伝いをしているって事ですよね ? 東京高等裁判所長官の経歴を持つ先生が何故そんな …… 」
・・・オーラは ……気のせいだったのか ?
「勿論、千葉洋平という悪魔をこの世から抹殺する為だ」
来橋教授は当然のように断じた。
・・・なんだ ?
「・・・いみ ……意味が分かりませんね」
それこそ真意がまったく読めん。
「君はどうやって千葉洋平に目をつけたんだね」
「勘 ……ですかね」
真意が読めん限り ……腹は割れない。
「ん ? 刑事の勘ってヤツかね ? ははっ ……まあ、言いたく無ければいい。君をそんな状態で監禁しておいて、心を開けって言う方が無茶な話だ」
「これが ……あなたの仕業とはとても思えないが ……で ? 俺はあなた達の隠蔽工作が終わるまで、こうやって監禁されるわけですか ?」
「申し訳無いがそうです。しかもさっき予定が延期になってね。本当は明日にでも、君を開放できるはずだったんだが、あいつのせいで二人が急遽本庁に帰ってしまってね」
来橋教授はそう言ってテレビを指差した。
・・・高速事故 ?
「管轄区であんな大事故が発生、しかも原因と思われる煽り運転の運転手は行方不明。そんな状況では、県警本部長も刑事部長もこっちで隠蔽工作どころではない、というわけだよ」
・・・だから ?
「そんなの関係ないだろっ。さっきから何言ってんだっ ! 蓮見や巻本がどこにいても、迫田や袖原、それにあんたがいれば隠蔽なんて出来るだろ。一刻も早くクソ野郎を何処かに隠して被害者を自由にしてやれよ」
「君は ……あいも変わらず一本気だね」
クソッ 何なんだいったい。
「君は小関正也を覚えているかね ?」
「おぜき ? ……来橋ゼミで助教授って呼ばれてたカリアゲ君か ?」
「・・・懐かしいね。確かに昔、彼はそう呼ばれていた。その正也だが ……去年、殺されたよ」
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